複数タグのススメ【3】
~タグは色々~
複数タグのススメ【1】~His-tag編~はこちら
複数タグのススメ【2】~GST編~はこちら
これまで2回にわたり、組換えタンパク質で使われるタグ(His-tag、GST融合タンパク質)の紹介をしてきました。3回目の今回は、MBP融合タンパク質とStrep(II)-tagについて紹介します。
MBP-tagとは
MBPはMaltose Binding Protein(マルトース結合タンパク質)の略です。
特徴
MBPとマルトースの親和性を利用した精製方法です。MBP自身は約42.5 kDaと大きめのタンパク質で、非常に良く可溶性発現するという特徴があります。目的タンパク質のN末端にMBPを融合発現することで、発現された融合タンパク質全体として可溶性発現しやすくできる利点があります。
精製条件は中性付近(pH 7.4前後)でサンプルを担体(カラム)に結合させ、溶出はマルトースとの競合溶出となるため、非常に穏和な条件で精製出来ます。
タグ部分の分子量が42.5KDaと大きいため、機能や構造の解析をする場合や抗体作成時の抗原して使用する場合には、タグの部分が邪魔になるので精製後にタグを切断することもあります。
Strep(II)-tagとは
Strep(II)-tagは8残基のアミノ酸(Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys)からなるタグです。
特徴
ストレプトアビジンを遺伝子工学的に改変したストレプタクチン(StrepTactin)とStrep(II)-tagの親和性を利用した精製方法になります。Strep(II)-tagは分子量約1 kDaと非常に小さいことから、Hisタグと同様に組換えタンパク質の構造や機能に対する影響が少ないと考えられているため、構造解析の場合でもタグを切断せずに使用することもあります。N末端、C末端のいずれにも接続することがます。
精製条件は、PBSでサンプルを結合させ、デスチオビオチンとの競合溶出を利用しますので、穏和な条件で精製が出来ます。
ストレプタクチンカラムには、一般にサンプル中に存在するビオチン化タンパク質の非特異吸着が起こりがちですが、これはバッファー中に適宜アビジンを添加することで回避することができます(Strep(II)-tagとアビジンは結合しません)。
複数タグでの精製
目的タンパク質のN末端とC末端に異なるタグを付けて発現されたタンパク質を「ダブルタグタンパク質」と呼びます。2つタグを付ける理由として、2段階のアフィニティー精製をすることで簡単に純度を高めることが出来る、という点があります。
よく使用されるダブルタグの例として、His-tagとStrep(II)-tagを使用する方法がありますが、GSTやMBPをN末端に連結させて可溶性を上げ、C末端にHis-tagを接続する場合もあります。
今回紹介したMBP融合タンパク質、Strep(II)-tagタンパク質の精製用のツールとして、HiTrapタイプの製品が発売開始になりました。シリンジでもシステムでも使えるHiTrapタイプなので、組換えタンパク質の実験をされているほとんどの方にご利用いただける製品です。
- MBP融合タンパク質精製用プレパックカラムの詳細はこちら
- Strep-tagタンパク質精製用プレパックカラムの詳細はこちら
タグの選択
このシリーズで4種類のタグを紹介してきました。現在の傾向として、研究対象は可溶性発現しやすく精製しやすいものから、発現も精製も難しいものへと徐々に移り変わりつつあります。研究を進める際には、同時平行して数種類のタグを用いたベクターを構築し、発現・精製条件を検討することをお勧めしたいと思います。一見遠回りのようですが、タンパク質とタグには相性の善し悪しがあるようですので、平行して実験を進めることでベクター構築からやり直しという事態を回避し、結果として早く目的を達成出来ることにつながります。
タグの種類
|
His-tag |
GST |
MBP |
Strep(II)-tag |
大きさ |
6~10×His |
26 kDa |
42.5 kDa |
1 kDa |
リガンド |
金属イオン(Niなど) |
グルタチオン |
デキストリンなど |
StrepTactin |
可溶性の促進 |
なし |
あり |
あり |
なし |
タグの位置 |
N末端、C末端 |
N末端 |
N末端 |
N末端、C末端 |
一般的な溶出条件 |
イミダゾールによる競合溶出 |
還元型グルタチオンによる競合溶出 |
マルトースによる競合溶出 |
デスチオビオチンによる競合溶出 |