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幹細胞の生体外増幅を捉える ~大腸上皮幹細胞の生体外培養法の確立~
DeltaVisionお客さまの声(1/3)

東京医科歯科大学 消化管先端治療学

准教授 中村 哲也 先生

消化管の再生医療研究でご活躍されている東京医科歯科大学消化管先端治療学講座の中村哲也先生は、正常な大腸上皮細胞を生体外で培養する新技術を開発しました。さらに、この方法でただ1 個の幹細胞から増やした細胞群の移植により、傷害された大腸上皮が修復できることを示しました。ご研究成果は2012年3月のNature Medicineにて、「Functional engraftment of colon epithelium expanded in vitro from a single adult Lgr5+ stem cell」(*1)として発表されました。

今回、論文中に示されているDeltaVisionを用いた生細胞イメージングのデータや組織切片画像を交えて、ご研究についてお話を伺いました。


大腸上皮幹細胞を生体外で増幅する培養技術の確立

腸の上皮細胞は生まれ変わる速度が速い細胞で、1週間程度で次々と細胞が入れ替わります。ここで腸として機能する分化細胞を供給し続けているのが上皮幹細胞です。大腸の上皮幹細胞は、「クリプト」と呼ばれるシャンパングラスのような形をした窪みの下辺部に存在し、大腸上皮を構成する細胞の中では特異的にLgr5 (Leucine-rich repeat-containing G protein-coupled receptor 5)を発現しています(図1)。

図1. クリプト構造模式図
図1. クリプト構造模式図

クリプト内では、Lgr5陽性上皮幹細胞のすぐ上に、盛んに増殖する増殖細胞があり、上にいくにしたがって増殖能を失うのと引き換えに機能を持つ分化細胞、すなわち杯細胞や吸収上皮細胞になります。このクリプトが沢山並んで大腸上皮組織は作られています。

従来、腸などの消化管の上皮細胞は生体外で1週間以上培養することが困難で、まして幹細胞の生体外培養は、長年多くの研究者が挑みながらも実現できなかった課題でした。生体外培養法が確立できれば、幹細胞の増殖過程を詳細に解析することや、化合物による幹細胞への影響を解析するなどさまざまな研究の可能性が拡がります。激しい競争の結果、2009年以降、複数の研究室から胃や小腸の上皮細胞の生体外培養法が報告され始めました(*2-6)。

中村先生のグループでも、2007年頃から独自にLgr5陽性上皮幹細胞の生体外培養法の確立に挑戦、幾通りもの条件検討を積み重ね、既存の報告とは異なる新しい大腸上皮細胞の生体外培養法、TMDU(Tokyo Medical and Dental University)プロトコールが遂に完成しました。

TMDU プロトコールでは、まずマウスの大腸からクリプトを剥がして採取します。この時、個々の細胞にまでばらばらにするのではなく、コラゲナーゼやディスパーゼ、DTTの濃度と酵素処理時間を調節することで、クリプト構造単位を保つ程度に分解します。さらに30%パーコール密度勾配遠心分離法によりクリプトを濃縮します。これをType Iコラーゲンに包埋し、R-spondin1など複数の液性因子を含む無血清培地中で三次元培養します。

この方法でクリプトを構成する細胞が生きたまま維持され、増殖する様子を1週間もの長い間にわたってDeltaVisionによるライブセルイメージングで捉えることに成功しました*

Type Iコラーゲン中のクリプトは増殖するにつれ、細胞が1層の球状構造物に育ちます。この細胞集団を免疫染色したところ、上皮細胞マーカーのE-cadherin、内分泌細胞マーカーのCgA、大腸細胞マーカーのCAIIを発現している細胞や、Alulcian Blue染色で染まる杯細胞が含まれ、生体内の大腸上皮組織を構成する細胞がすべてこの球状構造物に含まれることがわかりました。また、細胞周期の進行の指標となるKi-67の発現が確認できたことから、増殖細胞も含んでいることも明らかになりました。

加えて、電子顕微鏡画像から、生体内では腸管内腔側に見られる微絨毛(Microvilli)が球状構造の内側にあることが示されました。即ち、球状構造の外側が腸の壁側(体側)で、内側が腸管内腔側の向きを持っていることを示唆している、と中村先生のグループでは考えてらっしゃいます。

さらに、この球状構造物を適当な大きさに解離させ、それらをコラーゲンゲルに包埋して培養することで、大腸の上皮細胞を1年以上にわたり継代培養できるようになりました。(図2)培養60日後でも、上皮細胞の特徴を裏付ける遺伝子が発現していることをRT-PCRで確認できたうえ、幹細胞マーカーのLrg5の発現が、培養初日より、培養60日後で高いという興味深い結果も得られました。これはこの培養条件が、大腸上皮の幹細胞にとって増殖しやすい環境であることを示唆しています。

図2. 大腸上皮幹細胞を含む細胞集団の継代培養模式図
図2. 大腸上皮幹細胞を含む細胞集団の継代培養模式図

この現象が、幹細胞が実際に増えたことによるものかどうかを調べるため、Lgr5発現細胞でのみGFPを発現するノックインマウス(Lgr5-EGFP-creERT2 mouse)のクリプトを採取して、生体外で培養しました。この結果、GFP陽性細胞つまり、幹細胞が実際に数的に増加したことが証明されました。

中村先生のグループが確立した生体外培養法が、大腸上皮の幹細胞を生体外で増幅できる培養法であることを示した決定的な ライブセルイメージングデータも、DeltaVisionを用いて撮影されました*

*動画ファイルはYui S. et al., (2012) Nature Medicine 18, 618-623のSupplementary informationからご覧いただけます。

» 生体外培養した幹細胞による腸組織再生

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