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IN Cell Analyzer 1000を用いた神経幹細胞分化の定量
Accurate quantitation of stem cell differentiation towards a complex phenotype using the IN Cell Analyzer 1000

生体のすべての細胞は、胚葉(中胚葉、内胚葉、外胚葉)から分化しますが、幹細胞はそのすべての細胞を作り出す能力を備えています。

幹細胞が培地中で分化するにつれて、集団内の細胞の多様性やその割合は変化し、その変化の度合いはそれぞれの増殖条件に依存します。幹細胞が分化する度合いや分化の方向性は、幹細胞マーカー(Oct-3/4, Nanog, SSEA3など)や、分化した細胞特異的に発現する分化マーカー(β-III-Tubulin, MAP2, AFP, MHCなど)を検出することで明らかになります。

これらのマーカーを検出し、細胞の表現型を特定する有用な手法として、免疫細胞化学的と細胞形態学を組み合せた手法が用いられています。

本報では、IN Cell Analyzer 1000により神経細胞分化マーカー(MAP2)を検出・解析し、神経細胞へ分化する幹細胞を定量する手法を紹介します。本実験には、神経幹細胞分化のモデル系としてよく知られているNTERA-2 細胞を使用しました。

マテリアル

機器

  • IN Cell Analyzer 1000 kinetic instrument

解析ソフトウェア

  • IN Cell Investigator*, single seat license (28408971)

*本報の解析にはIN Cell Investigatorに含まれる、IN Cell Developer Toolboxモジュールを使用しました。

試薬

  • NTERA-2 cl.D1 cells (ATCC, CRL-1973)
  • Dulbecco's Modified Eagle's Medium (Invitrogen, 10566-024)
  • Fetal bovine serum (FBS) (Invitrogen, 16000-044)
  • Non-essential amino acids (Invitrogen, 11140-050)
  • L-Glutamine (Invitrogen, 25030-081)
  • DAPI (Invitrogen, D3571)
  • 100-mm bacterial petri dish (Fisherbrand™, 06-757-13)
  • Laminin (Sigma-Aldrich, L2020)
  • Poly-D-lysine (Sigma-Aldrich, P7886)
  • Cytosine s-D-arabinofuranoside (Sigma-Aldrich, C1768)
  • Fluorodeoxyuridine (FUrd) (Sigma-Aldrich, 46875)
  • Uridine (Urd) (Sigma-Aldrich, U30003)
  • 96-well ViewPlate (PerkinElmer, 6005225)
  • Bovine serum albumin (BSA) (Sigma-Aldrich, A2058)
  • Trypsin-EDTA (Invitrogen, 25200-106)

プロトコール

NTERA-2 細胞の分化

  1. Trypsin-EDTAで細胞を懸濁、細胞数をカウントする。
  2. 100 万個の細胞を10 cmシャーレにまく。
  3. 10 mlの培地を加える。
  4. シャーレを37°C, 5% CO2 条件下で一晩インキュベートする。
  5. 10 mM レチノイン酸11 µlを培地1 mlと混合し、シャーレに一滴ずつ加える。
  6. 2、3日ごとにレチノイン酸を含む培地を交換し、14 ~ 20日間培養する。
  7. 最終日は、レチノイン酸を含む培地を取り除き、5 mlのPBSで洗浄する。
  8. Trypsin-EDTA 1.5 mlを加え2分間静置する。
  9. シャーレを軽くたたき底面から細胞をはがす。
  10. 培地3.5 mlを加えシャーレから無菌チューブへ細胞を回収する。
  11. 培地5 mlをシャーレに加え残った細胞を同じチューブへ回収する。
  12. 細胞数をカウントする。
  13. laminin(4 µg/ml)/poly-D-lysine(10 µg/ml)コートしたシャーレに、80,000 cells/cm2の密度で細胞をまく。
  14. 37°C, 5% CO2内で一晩インキュベートする。
  15. 培地を除き、分裂阻害剤(10 µM FUrd, 10 µM Urd, 1 µM Cytosine s-D-arabinofuranoside)を含む培地を加える。
  16. 分裂阻害剤を含む培地で少なくとも4日間、長くとも10日間培養する。2-4日ごとに培地を交換する。

MAP2マーカーを用いた神経細胞分化の検出

  1. 培地を除き、PBSで洗浄する。
  2. 4% paraformaldehyde溶液中で、室温、20分間細胞を固定する。
  3. Paraformaldehydeを除きPBSで洗浄する。
  4. 透過処理のため、0.1% Triton-X-100, 5% BSA, PBS 中、室温で1時間インキュベートする。
  5. 一次抗体溶液で細胞を4℃、一晩インキュベートする。一次抗体は製造元の推奨する希釈率に従う。
  6. 一次抗体溶液を除き、1% BSAを含むPBSで3回洗浄する。
  7. 一次抗体に特異的な蛍光標識二次抗体溶液で1時間インキュベートする。
  8. 二次抗体溶液を除き、1% BSAを含むPBSで1回洗浄する。
  9. 0.2 µg/ml DAPI を含むPBS溶液中で細胞を2分間インキュベートする。
  10. DAPI溶液を除き、PBSで2回洗浄する。
  11. IN Cell Analyzer 1000を用い測定する。

結果

マニュアル(n=6)、またはDeveloper Toolboxによる細胞カウントを比較しました(表1、図1)。両手法による核(DAPI 染色)、神経細胞(MAP2染色)のカウント結果はほぼ一致しました。

表1. マニュアルカウントとDeveloper ToolboxによるDAPI、MAP2 染色細胞のカウント結果。

  Image Human count Standard deviation Developer Toolbox count
DAPI 1
2
3
68.83
19.17
35.33
7.52
0.75
4.93
73
18
36
MAP2 1
2
3
18.00
12.33
12.83
2.61
1.03
3.06
18
12
10

図1. マニュアルカウントとDeveloper Toolboxによるカウント結果の比較。
図1. マニュアルカウントとDeveloper Toolboxによるカウント結果の比較。
棒グラフはマニュアルカウント、ポイント(▲、■)はDeveloper Toolboxによるカウント結果です。
棒グラフ上部分にあるバーは、95%を信頼区間とした場合のエラーを示しています(n=6)

Developer Toolboxによる解析

それぞれのイメージをDeveloper Toolboxにより認識しました(図2)。認識前のイメージは左側、認識後のイメージは右側です。赤い領域は測定対象を示し、緑の領域は測定対象外を示しています。核のイメージ(Nuclear)はDAPIによる染色です。神経細胞(Neuronal)のイメージは一次抗体に抗MAP2抗体を、二次抗体にanti-rabbit Cy5 conjugated antibodyを使用して取得しました。

Image1

Image2

Image3
図2. Developer Toolboxによる画像認識の様子
3つの画像領域(Image1, 2, 3)を対象とした認識結果です。同領域について、DAPI 染色による核の認識結果(A, C, E)と、抗MAP2抗体による分化した神経経細の認識結果(B, D, F)を示しました。
IN Cell Analyzer 1000で取得したシグナル(各左側の画像)から、Developer Toolboxにより核、神経細胞を認識しました(各右側の画像)。
細胞形態が複雑な箇所や細胞が密集している箇所であっても、神経細胞を正確に認識していることがわまります。
※Developer Toolboxで神経細胞を認識する流れについては、「Developer Toolbox による画像認識」をご参照ください。

神経細胞の定量例

10 µMレチノイン酸の処理時間を変えてNTERA-2細胞を培養し、神経細胞分化の定量を行いました。測定するタイムポイントにおいて、分裂阻害剤を添加した培地で6日間培養した後、固定、染色を行い、解析に用いました。

全細胞における神経細胞の割合を示したものが図3、全細胞と神経細胞をカウントした結果が図4です。

図3では、レチノイン酸処理が17日間を超えると、分化した神経細胞の割合が減少していることが示されています。これは、レチノイン酸による増殖抑制(神経細胞への分化促進)を受けていない細胞の増殖によるものであることが図4からわかります。

図3. 分化した神経細胞の割合
図3. 分化した神経細胞の割合
それぞれのタイムポイントで6ウェルを撮影し、1ウェルにつき5枚の画像を取得し数値化しました。エラーバーは標準偏差を示します。

図4. 細胞全体の数と分化した神経細胞の数
図4. 細胞全体の数と分化した神経細胞の数
神経細胞への分化はレチノイン酸添加後、17日目から起こりました。(エラーバーは標準偏差)

Developer Toolbox による画像認識

画像から有意義なデータを得るには、極度に強度の高いシグナルや対象物が重なり合って検出されるような画像からでも、興味のある対象領域とその他の領域を正確に認識し分類できることが重要です。

対象を分類するための最良の方法は、ひとつひとつの要素(例.大きさや輝度)ごとに対象を選び出し、それらを組み合せる(マクロを使用する)ことです。対象物を分類することができたら、次に対象物の特性を表すデータ(シグナル強度、長さ、形態など)を計測します。

画像を目で観察し、目的の細胞群(本報では神経細胞)とそれ以外の集団とを見分けるための変化を見いだします。2つの集団間で常に異なっている変化を見つけ、集団を区別するための判断基準とします。

以下に、Developer Toolboxによる、分化した神経細胞のカウント解析の流れを示します。一度解析アルゴリズムを構築してしまえば、自動で解析が可能になります。

Step 1
Step 1. 小さな核を選択的に認識します。

Step 2
Step 2. 大きな核を選択的に認識します。

Step 3
Step 3. 小さな核と大きな核の画像を組み合わせすべての核を認識します。

Step 4
Step 4. 神経細胞の核は小さいため、面積の大きい核(図中、緑)を除外し、面積の小さい核のみを認識(図中、赤)するようにします。

Step 5
Step 5. 検出したMAP2-positive細胞のシグナルの中から、Step 4で認識した核と重なりあうシグナルのみを分離し、神経細胞としてカウントします(図中、赤)。このステップにより、ひとつの核につきひとつの神経細胞を対応づけることができます。
Step 4で核認識されていないシグナル(図中、緑)は、神経細胞としてはカウントされません。

Conclusion

幹細胞、細胞分化、前駆細胞や分化細胞由来の幹細胞などを対象とした研究において、影響を与える化合物や生体分子の効率的なスクリーニングには、解析の自動化が求められます。

本報では、異なるタイプの細胞が混在している画像をもとにして、Developer Toolboxを用いた画像解析により対象となる細胞の定量解析を行った例をご紹介しました。いくつかの分離ファクターを組み合せた解析アルゴリズムを構築することで、高密度な細胞集団からでも、神経幹細胞の神経細胞への分化の度合いを正確に自動計測することが可能になりました。このような細胞画像をもとにした自動解析によるアプローチは、幹細胞や発生生物学に関する他の一般的なアプリケーションにも適用できます。


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