Cytiva

検索のヘルプ

Location:Home実験手法別製品・技術情報セルラーサイエンス

PDF
ポスターPDF

ハイコンテンツアナリシス(HCA)を利用したヒトメラノーマに対する薬剤開発

はじめに

悪性メラノーマは、しばしば化学療法剤に抵抗性を示す悪性腫瘍で[1]、有効性の高い薬剤の開発が必要です。腫瘍内と同様に低酸素条件下で培養すると、メラノーマ細胞は、効率よくグルコース取り込み、解糖系の亢進、および乳酸の蓄積を示し[2]、酸化的リン酸化ではなく解糖系がATPの主要な産生源となります。このような代謝の変化が薬剤抵抗性の表現型に関与していると考えられています。

解糖系に依存する細胞はミトコンドリアに作用する薬剤に対して抵抗性が高い一方、解糖系に作用する薬剤に対しては脆弱性を示します。以上よりメラノーマ細胞の薬剤耐性および腫瘍内の環境に対する適応のメカニズムの解析を行うため、高グルコース条件および低グルコース条件の細胞モデルを構築しました。

まず、IN Cell Analyzer 2000を用いて、細胞モデルの評価を行いました。続いて、ミトコンドリアに作用する候補薬剤によるアッセイを実施し、さらに、ABCトランスポーターを含む、薬剤排出による抵抗性に関与する因子に対するsiRNA効果を評価しました。

今回の研究では、より自然に近い状態で評価するため生細胞で使用できる色素を用いて生細胞画像を取得しました。画像取得には40×(0.6 NA)対物レンズを用いて、高解像度のミトコンドリア画像を取得しました。また大型のLargeカメラ(400万画素カメラ)を用いることで、Standard カメラに比べ多くの細胞を1回の撮影で取得することができます(図1)。

Largeカメラでより多くの細胞を取得
図1 Largeカメラでより多くの細胞を取得できます。WM115-Glu細胞を、MitoTracker™ Red CMXRos(赤)とHoechst™ 33342(青)で染色しました。Large カメラ(左)とStandard カメラ(右)を用いて、40×/0.6 NA対物レンズでIN Cell Analyzer 2000により取得した生細胞画像。

実験方法

細胞株の順応

ヒトメラノーマ細胞株WM115(ECACC)は5 mMグルコースを含有する完全増殖培地Minimum Essential Medium Eagle(MEM、Sigma)で培養しました。細胞株は3週間かけて徐々に25 mMグルコース培地またはグルコース無添加の10 mMガラクトース培地に順応させ、2種類の細胞株としてWM115-GluおよびWM115-Galを作製しました。

親株のヒトメラノーマ細胞株(WM115)をグルコース無添加または高グルコース培地に順化
図2 親株のヒトメラノーマ細胞株(WM115)をグルコース無添加または高グルコース培地に順化させ、ミトコンドリア酸化的リン酸化(WM115-Gal)または解糖系(WM115-Glu)に依存する細胞株を作製しました。

薬物/siRNA試験

各標的に関連するsiRNA(2種類のプール)を選択し、384ウェルプレート(Greiner™)で調製しました。HiPerFect導入試薬(Qiagen)を添加し、導入試薬との複合物を形成させるため30分間放置しました。次にWM115-Glu細胞またはWM115-Gal細胞を加え、プレートを48時間インキュベートしました。候補薬物を添加してさらに24時間インキュベートし、細胞をHoechst™ 33342、カルセインAM、およびMitotracker Red CMXRos(すべてInvitrogen)で染色した後に画像を取得しました。

画像取得および解析

生細胞画像は、IN Cell Analyzer 2000で40×(0.6 NA)対物レンズとLargeカメラを用いて取得し、画像はIN Cell Investigatorソフトウェアを用いて解析しました。

結果

それぞれの細胞株は異なる表現型を示し(図3A、B)、複数パラメータによる測定値のプロファイリングから、その違いを判別することができます(図3C)。WM115-Gal細胞株の形態的な特徴として、核がより大きく、ミトコンドリアネットワークがより広範なことなどが挙げられます。

リン光性酸素感受性プローブ(Luxcel)を用いた細胞株の呼吸速度の測定により、WM115-Gal細胞株ではWM115細胞株と比較して酸素消費率が上昇している(図3D)ことが明らかになりました。

2種類の細胞株は異なる表現型プロファイルを示します
図3 2種類の細胞株は異なる表現型プロファイルを示します。(A、B)40×/0.6 NA対物レンズを用いIN Cell Analyzer 2000で取得した生細胞画像。MitoTracker™ Red CMXRosで染色しました。(C)自動解析により区別できる複数パラメータ表現型を示します。(D)WM115-Gal細胞はグルコース含有培地で培養した細胞と比較して酸素消費量の増加を示します。

WM115-Gal細胞株はATP生成がミトコンドリア呼吸に依存すると考えられるため、電子伝達系阻害剤に感受性を示すと考えられます。これと一致して、2種類の細胞株(図4)では、電子伝達系の呼吸複合体IIIに作用するアンチマイシンA(ミトコンドリアに作用)に対する細胞感受性において顕著な差異を示しました。アンチマイシンAはWM115-Gal細胞株に対して用量依存性の毒性作用を示しました。一方、WM115-Glu細胞株では、アンチマイシンAに抵抗性を示し、本細胞株で解糖系が主要なATP生成機序であることと一致しました。

アンチマイシンAに対する影響
図4 アンチマイシンAに対する影響 解糖系型細胞株(WM115-Glu)は抵抗性を、呼吸形細胞株(WM115-Gal)は感受性を示しました。

WM115-Glu細胞株とWM115-Gal細胞株のいずれも、ABCB8輸送体タンパク質をノックダウンすると、核の数と面積およびミトコンドリア数が減少し、コントロールと比較してMitotracker Red CMXRos蛍光強度が上昇しました(図5)。ABCB8の機能は十分解明されていませんが、酸化ストレスの保護に重要な役割を果たすと考えられています[4]

アンチマイシンAに対する影響
図5 ABCトランスポーターであるABCB8のノックダウンは細胞増殖および表現型に影響を及ぼします。モデル細胞株を様々な薬剤やsiRNAで処理した384ウェル生細胞バリデーション試験の結果例。図3と同様に細胞を染色しました。WM115-Glu細胞の3Dスキャッタープロット内で赤く囲われた部分は、ABCB8ノックダウン表現型のクラスタリングを示します。細胞画像は、ABCB8ノックダウンの細胞増殖およびミトコンドリア形態への影響を示します。

核およびミトコンドリアに関連する解析パラメータについてWM115-Gal細胞株を解析し、そのデータの可視化を行いました。処理条件における細胞の表現型の差異が明らかになりました(図6)。例としてABCB8に対するsiRNAで処理した表現型を図6(赤い枠)に示しました。複数パラメータによる評価は、表現型の微妙な差異を明らかにし、結果の信頼性を向上させます。

アンチマイシンAに対する影響
図6 siRNAノックダウンデータのクラスタリング。ヒートマップは、さまざまな核とミトコンドリアのパラメータに関して、WM115-Gal細胞に対する薬剤処理およびsiRNAノックダウンの結果を示します。クラスタ解析から、ABCB8ノックダウンの表現型はデータ相関が高いことが分かります。(拡大表示部分)。

まとめ

  • HCA技術を利用して、薬剤抵抗性機序解明のモデルとして、異なる培養条件に適応したメラノーマ細胞株を作製しました。
  • 酸化的リン酸化への依存性に一致して、WM115-Gal細胞株はアンチマイシンAに対する感受性を示しました。
  • ABCB8輸送体のサイレンシングは両細胞株の増殖を阻害し、異なる表現型の変化を示します。
  • Investigatorソフトウェアによる複数パラメータの定量化とクラスター解析により、軽微な差異の認識が可能となり、表現型分類の信頼性が向上しました。

References

  1. Helmbach, H., Rossman E., Kern, M. A. Drug-resistance in human melanoma. Int J Cancer 2001; 93: 617-22.
  2. Vander Heiden, M.G., Cantley, L.C., Thompson, C.B. Understanding the Warburg Effect: The Metabolic Requirements of Cell Proliferation. Science 2009; 324: 1029
  3. Elliot, A.M., Al-Hajj, M.A. ABCB8 Mediates Doxorubicin Resistance in Melanoma Cells by Protecting the Mitochondrial Genome. Mol Cancer Res 2009; 7(1).
  4. Zutz, A., Gompf, S., Sch ägger, H., Tampé, R. Mitochondrial ABC proteins in health and disease. Biochimica et Biophysica Acta 2009; 1787: 681-690

お問合せフォーム

※日本ポールの他事業部取扱い製品(例: 食品・飲料、半導体、化学/石油/ガス )はこちらより各事業部へお問い合わせください。