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Life Sciences Day 2015 ポスター賞受賞者インタビュー
Biacore™で蛋白質間相互作用PPI阻害剤を探索する

長門石 曉 様
写真は長門石様とBiacore™ T200

東京大学大学院 工学系研究科 助教

長門石 曉 様

東京大学 長門石先生には、近年注目されているタンパク質-タンパク質間相互作用(PPI)を制御する低分子化合物のスクリーニングからヒットバリデーションまでをBiacore™(表面プラズモン共鳴:SPR)や等温滴定型熱量測定(ITC)、その他の物理化学的測定手法を用いて効果的に進めた実例を、各手法のポイントを交えながらご講演いただきました。また、ご講演内容はポスターでも発表していただき、参加者の方々に理解を深めていただきました。「この賞は、津本研の全員で取った賞だと思っています。トロフィーは津本先生のお部屋に飾ります」とポスター賞受賞の喜びを表現してくださった長門石先生にお話を伺いました。


注目されるPPI阻害剤と探索の流れ

長年創薬ターゲットとされてきた酵素、受容体、膜タンパク質といった分子タイプについで、近年、タンパク質-タンパク質間相互作用(PPI)が注目さており、この流れはアカデミアにおいても同様です。PPIを本当に低分子で阻害できるのかという問題に関しては議論の余地がありますが、今回の講演、ポスター発表では、PPIの低分子阻害剤を探索するという一例を紹介しました。
今回紹介したのは、Protein XがProtein Yの機能を阻害するという生体内では一般的な反応系の相互作用(PPI)に関して、阻害する低分子を探し、薬剤の候補とする研究の流れです。東京大学創薬機構のPPIライブラリー 約8,000種から、一次スクリーニングとしてAlphaScreen、次にカウンターアッセイとしてBiacore™(SPR)でフォールスポジティブを除き、最後のヒットバリデーションではITCも活用しました。
本研究では、質の高いタンパク質の入手、そしてタンパク質間相互作用の物理化学的性質のキャラクタライゼーションが非常に重要です。このキャラクタリゼーションの結果をアッセイ系の構築やヒットバリデーションの際の判断材料としても使用しました。

チャレンジングな標的分子とキャラクタリゼーション

標的となるProtein X、Yの複合体構造は未解明です。配列情報から二次構造を予測するIUPredPONDRというフリーのWebサービスを利用してProtein Xの二次構造を推測したところ、全配列にわたりDisorder領域が多く、天然変性型であることが分かりました。実際にタンパク質の二次構造を円二色性(Circular Dichroism: CD)分光法で解析したところ、αへリックス、βシートなどの構造をもたないDisorder領域が多いことがわかりました。また、示差走査カロリメトリー(DSC:Differential Scanning Calorimetry)解析でもピークが検出されず、明確な構造をもっていないことが分かりました。このような、明確な構造をもたない天然変性型のタンパク質に対して、低分子阻害剤がそもそも存在するのか、あったとしてもどれほどの阻害効果なのかということに関しては未知の部分が多く、チャレンジングな研究でもあります。
ITCおよび SPRでの評価では、Protein XとY は1:2結合の相互作用を示し、きれいなエンタルピー型の相互作用であることが分かります。ITCでの測定では、約-30 kcal という大きな発熱反応を示しています。この値は、構造変化を伴う相互作用を示唆し、天然変性型の特徴ではないかと考えております。これだけの発熱を持ちながら、KDが0.3 µMと低い数値ではないことから、低親和性であることが分かります。このような低親和性の相互作用解析を低分子で阻害できるのかということについても議論の必要があります。

薬剤候補のスクリーニング

一次スクリーニングとして、AlphaScreenを行いました。ドナービーズ、アクセプタービーズが近接すると、発光するというアッセイ系で、タンパク質同士が相互作用すると発光します。―阻害が起きると光が消滅する―、タンパク質の相互作用解析ではよく用いられるバイオケミカルアッセイ手法です。化合物の濃度は50 μMで設定しました。この濃度で高いと感じる方もいると思いますが、私たちはむしろ低いと思っています。約8,000種類の化合物の中から、300弱の化合物を一次ヒットとして選別しました。
つぎにBiacore™を用いてフォールスポジティブを除きました。Protein XをSensor Chip NTAに固定し、Protein Yをアナライトとして流しました。阻害効果があれば、シグナルが低下するというものです。通常はファーストチョイスとしてCM5を選択すると思います。しかし、構造がゆるい(熱安定性が低い)タンパク質をCM5で固定すると、活性を十分維持して固定化できないという経験があり、Hisタグを用いて固定化するNTAチップを用いました。30%程度まで活性を保持して結合することができました。
Biacore™の測定のポイントは、化合物の濃度設定と、アナライトの量です。化合物の濃度が低くても、アナライト濃度が高くても阻害が見えません。そのため理論式を出して、化合物のKD値は、今回は50 µM程度の値で見えてきてほしいという条件のもと、化合物の濃度は50 μM、Protein Yは0.5 μMに設定しました。
この条件で10 %以上阻害されている化合物を一次スクリーニングの300個弱から43個に絞り込むことができました。ノンラベルの手法による解析がいかに大事かわかります。さらにBiacore™で化合物の濃度をふり、見かけ上の阻害定数(Ki)*を求めました。これで、見かけ上のKiが評価できそうな化合物が、さらに13個まで絞り込めました。
*Biacore™では結合活性で相互作用を検出していますので、Ki値を結合量から算出することはできません。このため、Biacore™の阻害測定では、IC50値(50% 阻害濃度)で、阻害の強さを評価します。IC50値が小さいほど、阻害効果が高いと評価します。

いよいよ、「この中にはたしてHitはあるのか?」というヒットバリデーションに進んでいきます。ヒットバリデーションでは細胞内でも阻害が見えるかどうか試してみたかったため、ルシフェラーゼレポーターアッセイを取り入れました。Protein Yは遺伝子を抑制し、Protein Xが入るとProtein Yが活性化するという仕組みをルシフェラーゼで評価しました。Protein Xを特異的に阻害していれば、回復するということを意味します。その結果、13化合物のうち、1種類の化合物のみ阻害が見られました。
では、残りの化合物は何なのか? AlphaScreenおよびBiacore™で阻害作用があることが分かっているのは確かです。可能性としてはProtein XではなくProtein Yに作用するというものです。その可能性を確かめるため、サーマルシフトアッセイと呼ばれる、熱安定性をSYPRO Orangeで評価する手法を試してみました。すると、化合物を作用させる前と比べて、ピークが低温側にシフトすることが分かりました。この結果から、残りの化合物はProtein Yを不安定化することがわかりました。この結果、PPIスクリーニンングにおいては、阻害のかかってほしくないタンパク質側に阻害がかかり、フォールスポジティブを生じることがあることがわかりました。
念のため、相互作用の特性を見るのにITCを使用した評価も行いました。すると、先ほどのレポーターアッセイでは阻害が見られなかった化合物で発熱反応を確認することができました。この化合物は、Biacore™で測定した見かけ上のKiの値がもっとも悪い化合物になります。この化合物に対して、濃度を高めてレポーターアッセイを行いました。100、200 µMまで濃度をあげると阻害が見られました。
このような一連の流れを経て、Protein Xに対して最終的に2つの化合物を選抜することができました。

企業ができないところを突き詰めたい

PPI阻害剤は大部分の製薬会社が興味を寄せている分野だと思います。ただ、現時点では、本当にPPI阻害剤を創薬のターゲットとして良いのかと立ち止まっている方が多いという印象です。企業の場合、投資した分は回収しなければならないため慎重なのだと思います。一方、アカデミアは研究対象として面白いと感じたら立ち止まる必要はありません。生物学的に面白いと思ったものに関しては果敢にチャレンジする…、そういう自由度のあるところが大学のよさであり、使命だと思っています。また、企業がアカデミアに期待する役割であろうと考えています。
大学で創薬やスクリーニングに取り組む際、企業とは異なることをやるべきだと思うのです。たとえば、今回取り上げたようなチャレンジングな系や膜タンパク質など取扱いが難しい分野や、分子レベルで薬剤を作る分子標的創薬への取組みです。ただ薬を作るだけではなく薬の作り方や、プロセスを突き詰める。その過程で、学生や研究者、さらには学問が育っていくのだと思っています。

扱っているテーマは違っても、目的が同じだからこそ突っ込んだ話ができる

Life Sciences Dayでのポスター発表は、学会とは異なる点が多々あります。まず、ポスターを聞きに来られた方は、もちろんアカデミアの方もいらっしゃいましたが、企業の方が多い印象です。また、学会では自分たちの研究にオリジナリティがあり、先端を行っていることが前提ですが、Life Sciences Dayでは、ターゲットは違えど参加者が皆同じ目的を持っていて(今回のケースの場合、PPIスクリーニング)、お互いの情報をシェアすることが目的となっています。実験の詳細まで突っ込んでディスカッションする中で、相手の生の反応がとても参考になりました。驚いたような反応から、そんなのもう知っているという反応までさまざまでした。また、自分たちの研究が先進的なのか、それとも既に一般的になっているのかということがリアルに確認できたことも面白かったポイントです。その中で、自分の研究の立ち位置や、企業の方のニーズなどがわかり、今後すすむべき道も見えてきました。
Life Sciences Day全体に関しても、実社会に直結するニーズを土台にしたイベントになってきているように感じます。数年前とは、雰囲気が違ってきていますね。あとは、大学の方と企業の関係性が密になっており、よい交流の場になっている印象があります。そういう意味で、貴重なイベントだと思います。今後は、この貴重な機会を若い人にも活用してもらい、ポスターを発表し、発言し、議論して、どんどん生の反応を感じてほしいと思います。

長門石様、ポスター賞の受賞おめでとうございます。また、お忙しい中インタビューにご協力いただきましてありがとうございました。

 


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