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エクソソーム(Exosome)とは?

細胞間のコミュニケーションに細胞外小胞(Extracellular vesicles、EVs)が使用されているということが知られています。そのサイズや生物学的機能からエクソソーム、MV(microvesicles)などに分類され、中でも直径50~100 nmの小胞はエクソソームと呼ばれ、近年生体内での機能の解明が急速に進んでいます。

急速にすすむエクソソーム研究の中でも、がんとの関連は特に注目されています。がん細胞では正常細胞よりも20%多いエクソソームが放出されることが知られいるため、がん組織においてエクソソームは重要なツールとして位置付けられていることが推測されます。また、がん細胞由来のエクソソームには固有のマイクロRNAや表面の特異的タンパク質、DNAなどが含まれていることがわかっています。エクソソームはがんがその兆候を示す前、初期の段階から放出されていることから、がんの早期発見マーカーとして、またリキッドバイオプシーの対象として実用化に向けて研究がすすめられています(下図ならびに「がんマーカーとしてのエクソソーム」に詳述)。また、間葉系幹細胞から産生されるエクソソームにはがん抑制効果が見られ、研究対象として注目が集まっています。

以下では現在注目されているエクソソーム(Exosome)の特長を概説するとともに、 その解析方法をご紹介いたします。

がん細胞の早期発見モデル がん細胞由来のエクソソーム中に含まれるマイクロRNA をがんのバイオマーカーとして使用するという試みがされています。

がん細胞の早期発見モデル
がん細胞由来のエクソソーム中に含まれるマイクロRNA をがんのバイオマーカーとして使用するという試みがされています。
※本図は国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野 落谷孝広先生にご提供いただきました。

2つのエクソソーム検出・解析方法

エクソソームの解析方法は現在のところ2つに大別できます。一つは血、腹水などの体液試料や細胞培養液からエクソソームを分離・精製した後、エクソソームによって輸送されているタンパク質・脂質・RNAを解析する方法で、もう一つは直接、体液中からエクソソームを検出・解析する方法です。

体液試料からの分離・精製には、超遠心や限外ろ過などの手法が広く利用されています。ただし、この手法の場合、性状・濃度が類似した他粒子(エンドソーム等)や、IgMなどの高質量のタンパク質も含まれるためエクソソームだけを見ることが難しいとされています。そのため、エクソソーム表面に発現するテトラスパニンファミリー(CD63, CD9, CD81)やエクソソーム内に存在するHSP70やRabタンパク質ファミリー1)を利用したアフィニティー精製と組合せて実施されることもあります。最終的に分離・精製したサンプルがエクソソームであることを確認するために動的光散乱法や電子顕微鏡でのサイズ確認や、前述のテトラスパニンやエクソソーム内に存在するHSP70ファミリーやRabタンパク質を標的としたウェスタンブロッティングが行われます。

エクソソームの分離・精製なしに体液中から直接検出する手法として、フローサイトメトリー2)、マイクロアレイ3)や表面プラズモン共鳴4)細胞表面分子とのインタラクション)などの技術を利用したさまざまなものが研究されています。大腸がんの診断を目的とした、CD9とCD147の共陽性エクソソームを光増感剤ビーズも用いて高感度(血清5 μl~)に検出するExoScreenと呼ばれる手法も存在します5)。これらの手法は、主にがんの領域で、内視鏡や針を使って腫瘍組織を採取する従来の生検(バイオプシー)に代えて、血液などの体液サンプルを使って診断や治療効果予測を行うリキッドバイオプシーと呼ばれる低侵襲性の技術として期待されています。

参考文献

  1. Taylor DD, Gercel-Taylor C. Exosomes/microvesicles: mediators of cancer-associated immunosuppressive microenvironments.Semin Immunopathol.2011 Sep;33(5):441-54. 21688197
  2. Orozco AF, Lewis DE. Flow cytometric analysis of circulating microparticles in plasma. Cytometry A. 2010 Jun;77(6):502- 14.
  3. Jørgensen M1, Bæk R, Pedersen S, Søndergaard EK, Kristensen SR, Varming K. Extracellular Vesicle (EV) Array: microarray capturing of exosomes and other extracellular vesicles for multiplexed phenotyping. J Extracell Vesicles. 2013 Jun 18;2
  4. Im H, et al. Label-free detection and molecular profiling of exosomes with a nano-plasmonic sensor. Nat Biotechnol. 2014 May;32(5):490-5
  5. Yoshioka Y et al. Ultra-sensitive liquid biopsy of circulating extracellular vesicles using ExoScreen. Nat Commun. 2014 Apr 7;5:3591[WK(H1]

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がんマーカーとしてのエクソソーム

エクソソームはさまざまなタンパク質や脂質などを別の細胞に運ぶことで機能的変化や生理的変化を起こすことが知られていました。 2007 年にはエクソソーム中のRNA(mRNA, microRNA)の存在が明らかとなり1)、さらに、2010年にはmicroRNA(miRNA)がエクソソームを介して細胞間を移動し、機能することが証明されました2-4)

miRNAは、約22塩基の1本鎖のRNA分子で、標的mRNAに配列相補的に結合して、主にその標的遺伝子の発現を抑制します。ヒトmiRNAは現在まで約2,600 種類(Refseq)登録されています。その働き方として細胞自身がmiRNAを発現し、細胞内で標的mRNAの発現を抑制するものと、エクソソームなどを介して、そのmiRNAを発現した細胞とは別の細胞の遺伝子発現を抑制するものがあります。これら、miRNAが関与する生理現象・疾患は多岐にわたりますが、がんにおいては、let-7が2000年にヒトゲノムに存在することが報告された5)こともあり、精力的に研究がすすめられています。特に下表のように、エクソソーム中にがん特異的なmiRNAの存在が認められることから、がん診断への応用が期待されています。

エクソソームは、その特性上、体液(主として血液)に存在するため、これまでの組織生検での診断から、より侵襲性の低い血液検査等での実施が可能になります。また、血液における存在量も末梢血循環腫瘍細胞(CTC)の10倍以上6)であることから、早期診断や感度特異度に関しても期待されています。

参考文献

  1. Valadi H, Ekstrom K, Bossios A, Sjostrand M, Lee JJ, Lotvall JO. Exosome-mediated transfer of mRNAs and microRNAs is a novel mechanism of genetic exchange between cells. Nat Cell Biol 2007; 9:654-9
  2. Pegtel DM, Cosmopoulos K, Thorley-Lawson DA et al. Functional delivery of viral miRNAs via exosomes. Proc Natl Acad Sci USA 2010; 107: 6328-33.
  3. Zhang Y, Liu D, Chen X et al. Secreted monocytic miR-150 enhances targeted endothelial cell migration. Mol Cell 2010; 39: 133-44.
  4. Kosaka N, Iguchi H, Yoshioka Y, Takeshita F, Matsuki Y, Ochiya T. Secretory mechanisms and intercellular transfer of microRNAs in living cells. J Biol Chem 2010; 285: 17442-52.
  5. Pasquinelli AE et al. Conservation of the sequence and temporal expression of let-7 heterochronic regulatory RNA. Nature. 2000; 408:86-9.
  6. Jacqueline et al. In Vivo Flow cytometry of Circulating Tumor-Associated Exosomes. Anal Cell Pathol (Amst). 2016;2016:1628057

がん患者体液中のエクソソーム内に存在が確認されたマイクロRNA

がん種 体液の種類 報告のあるがんマーカーとなるマイクロRNAの種類
肺がん 血漿 Let-7f, miR-30a-3p, miR-100, miR-151a-5p, miR-200b-5p, miR-223, miR-301, etc.
乳がん 血清 miR-21, miR-200a, miR-200c, miR-205, miR-1246, etc.
膵がん 血清 miR-17-5p, miR-21, miR-1246, miR-3976, miR-43-6, miR-4644, etc.
前立腺がん 血漿、血清、尿 miR-107, miR-141, miR-375, miR-574-3p, etc.
グリオブラストーマ 血清、脳脊髄液 miR-21, mkiR-320, miR-574-3p, etc.
大腸がん 血清 Let-7a, miR-21, miR-23a, miR-150, miR-223, miR-1229, miR-1246, etc.
卵巣癌 血清 miR-21, miR-141, miR-200a, miR-200b, miR-200c, miR-203, miR-205, miR-214, etc.
子宮頸がん 膣洗浄液 miR-21, miR-146a, etc.

※本表は国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野 落谷孝広先生にご提供いただきました。

ドラッグデリバリー(DDS)への応用

エクソソームは、がんバイオマーカーとしての応用のほか、ドナーとなる細胞から特定の細胞へ物質(タンパク質、核酸、脂質)を輸送する性質を利用し、下表に示すようにDrug Deliveryへの応用も期待されています1)。ステップとしては、まず細胞培養、体液、またはグレープフルーツなどの植物からエクソソームを抽出調製し、輸送させる物質を導入するといった手順となります。

特に細胞培養で分泌されたエクソソームを回収する方法は大量調整が可能であることに加え、薬効が期待されているmiRNAやタンパク質を含むエクソソームがもともと細胞で発現している場合にはエクソソームへ導入する必要がなく、発現していない場合でも強制発現系による導入が比較的容易です。

miRNAを薬効標的とした例では、let-7をHEK293細胞のエクソソームにトランスフェクション後、分泌されるlet-7を含むクソソームに乳がん細胞への抗がん作用が確認された例があります2)。また、タンパク質の例では、脂肪組織由来の間葉系細胞から分泌されるネプリライシンを含むエクソソームを利用し、神経芽腫細胞に取り込ませて細胞内のβアミロイドの量を減少させたという例があります3)。このように、特定の物質を特定の細胞へ輸送する性質のほか、エクソソームは生体分子であるため、従来のナノパーティクルによる薬物輸送と比較して毒性が少ないと予想されます。また、ナノパーティクルでは透過が困難である脳血液関門を越えることが確認されており、到達困難な組織への強力な輸送分子としても期待が高まっています4)

このように、薬物の輸送手段としてエクソソームの研究が精力的に進められています。しかし、エクソソーム自体のサイズが小さいこと(~100 μm)、また薬効を発揮する場所が細胞内やその小器官内であり微細であることから、蛍光顕微鏡で観察するためには、従来の光学顕微鏡の回折限界を超えた超解像技術が必要となってきます。

参考文献

  1. Masaharu Somiya, Yusuke Yoshioka, Takahiro Ochiya Drug delivery application of extracellular vesicles; insight into production, drug loading, targeting, and pharmacokinetics. AIMS Bioengineering, 2017,4(1): 73-92.
  2. Ohno SI et al. Systemically Injected Exosomes Targeted to EGFR Deliver Antitumor MicroRNA to Breast Cancer Cells. Mol Ther. 2013 Jan;21(1):185-191.
  3. Katsuda T et al. Human adipose tissue-derived mesenchymal stem cells secrete functional neprilysin-bound exosomes. Sci Rep. 2013;3:1197. doi: 10.1038/srep01197. Epub 2013 Feb 1.
  4. Yang T et al. Exosome delivered anticancer drugs across the bloodbrain barrier for brain cancer therapy in Danio rerio. Pharm Res. 2015 Jun;32(6):2003-14.
Stages Source of EVs Drugs Therapeutic outcomes
In vitro MDA-MB231 cells porphyrin phototoxic effect
HUVECs
hESCs and hMSCs
LNCaP and PC-3 cells paclitaxel anti-cancer effect
hMSCs anti-miR-9 reduce chemoresistance of cancer cells
HeLa cells saporin anti-cancer effect
In vivo milk withaferin A anti-cancer effect
grapefruit JSI-124/paclitaxel anti-cancer effect
mouse dendritic cells doxorubicin anti-cancer effect
Raw 264.7 cells paclitaxel anti-cancer effect
Raw 264.7 cells catalase neuroprotective effect in Parkinson's disease model
HEK293 cells let-7a anti-cancer effect
Clinical trials grape curcumin ongoing phase I study
dendritic cells tumor antigen ongoing phase ll study

※参考文献 1 よりBioengineeringの許可を得て転載。

細胞表面分子とのインタラクション

エクソソームは前述のとおり、50~100 nmの粒子です。その表面にはさまざまな膜タンパク質が存在することが知られており、分泌する親細胞の種類によって膜タンパク質も異なります。

ニューロン由来のエクソソームの膜表面には糖脂質の一種であるglycosphingolipids(GSLs)が豊富に存在します。このGSLはアルツハイマー病の脳に見られる老人斑の主成分であるAmyloidβ(Aβ)と結合することが知られています。

アルツハイマー病が進行するに従い、血中Aβ結合エクソソームの濃度が比例して増加することから、Aβ結合エクソソームをモニターすることで疾患マーカーとして応用も期待されています。また、Aβと結合したエクソソームはマイクログリアに取り込まれ分解されることから、エクソソームがAβのクリアランスに関連していると考えられています。実際にGSLリッチなエクソソームを、APPマウスの脳内に投与したところ、脳内のAβプラークが消失したというデータもあります。

ニューロン由来のエクソソームとのAβの相互作用を、SPR生体分子相互作用解析装置であるBiacore™システムを使用し、調べた研究をご紹介します。マウス神経芽細胞腫のN2a細胞から分泌されたエクソソームをアナライトとし、Aβを固定したSensor Chip CM5上に流すことで結合の有無を確認しました。その結果から、Aβはエクソソームと親和性があること、またAβとGSLが直接的に結合することが分かりました。

北海道大学 湯山先生のご研究です

  • Kohei Yuyama, et al. Decreased Amyloid-Pathologies by Intracerebral Loading of Glycosphingolipid-enriched Exosomes in Alzheimer Model Mice, Journal of Biological Chemistry 289,24488-24498(2014)

Eは表面プラズモン共鳴センサーグラムです。Aβ 1-42 とアミノ酸配列が逆になっているペプチドAβ 42-1 とN2a 細胞由来のエクソソームとの相互作用を解析し、Aβ 1-42 でのみ相互作用が見られることがわかりました。

Fは固定化されたAβ 1-40、Aβ 1-42、またはAβ 1-38 とエクソソーム(EGCase で前処理した ものと未処理のものをコントロール(Ctrl)として比較)の相互作用を示すセンサーグラムです。この結果よりAβとのエクソソームとの結合がGSLが関わっていることが示唆されます。

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