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バイオダイレクトメール vol.59 細胞夜話
<第21回:名称の迷走 - ミトコンドリア>

サイトミクロソーム、サルコソーム、バイオブラスト、コンドリオミテン、コンドリオコンテン、、、さて、これは一体何者でしょう?

とにかくいろいろあったミトコンドリアの名前

これはすべてミトコンドリアの名称として使われていた言葉です。研究の歴史が長いだけに、実にさまざまな名前が考案されては廃れてゆきました。

いくつかの文献やWebページによると、ミトコンドリアを最初に発見したのはドイツのケーリッカーということになっています。1857年に発表された筋細胞の顕微鏡観察に関する論文で、「interstiellen körner」なるものついて記述しています。これは、英語に訳すとinterstitial granule(間質性の粒)といった意味になります。

ちなみに、1857年はどのような時代だったかというと、日本では安政4年、井伊直弼が大老になる前の年です。アジアの島国で侍たちが開国だ、鎖国だと騒いでいた頃には、ミトコンドリアの存在自体は記録されていたことになります。

もちろん、この時点ではミトコンドリアを効果的に染色するなどできないことでしたので、その中身や機能についてははっきりしたことは何もわかっていません。なお、20世紀初頭にミトコンドリア研究史を記したコードリーによると、1840年代にも細胞質に存在する粒に言及した論文があるようですので、ケーリッカーをミトコンドリアの発見者としてしまって良いかは若干の疑問が残ります。

名称の迷走

ミトコンドリアに初めて学術的な名前をつけたのはLa Valette St. Georgeで、1886年の論文でサイトミクロソームと呼んでいます。

続いて、アルトマンがミトコンドリアを詳しく観察し、1890年に美しい図解を出版します。アルトマンは、ミトコンドリアの形態が細菌に似ていたので、bioblastという名前を考案しました。
Die Elementarorganismen und ihre Beziehungen zu den Zellen(細胞の基本生物およびその関係)という彼の著書の題名からわかる通り、ミトコンドリアは細胞に住み着き細胞にとって不可欠な機能を担う生物だと考えていたようです。結局、その時代には証拠となるものがなかったため定説として定着することはなかったのですが、ミトコンドリアの起源を細胞内共生した好気性細菌とする細胞内共生説がほぼ定説となっている現代の状況を知ったらアルトマンは大喜びするかもしれません。

その後も何人かの研究者がミトコンドリアの研究に取組み、その中でサルコソーム、コンドリオミテン、コンドリオコンテンといった名称も提案されました。

2強時代

単なる記述や観察にとどまらず、細胞学的に本格的に研究を行った最初の研究者は、1897年から1902年にかけて論文を発表したベンダと、1897年から1911年にかけて論文を発表したメフェスでした。

そのうちのベンダの研究で、初めてミトコンドリアという名前が使用されました。彼の観察では列を成していたり糸状になっていたりすることが多かったため、Threaded grain(糸を通した粒)に由来するミトコンドリアを考案したようです。
ベンダは精子を中心に研究を行い、細胞の運動器官ではないかと考えました(後にメフェスがサンショウウオの精子のしっぽは切り離しても動き続けることを示し、この説は否定されました)。

メフェスはベンダの言うミトコンドリアがサイトミクロソームと同一であると示唆し、また、ベンダの説のうち、ミトコンドリアを含む精子が卵子に入るという部分は支持し遺伝の重要な要素であると考えていたようです(実際には精子のミトコンドリアDNAは遺伝しません)。
メフェスは、若い胚に多く見られ、粒子になることは多くなく、厚みが均一な糸状であることが多い細胞小器官を発見しました。ミトコンドリアからなる糸と区別するためにコンドリオコンテンと名付け、ミトコンドリアとコンドリオコンテンを総称する用語としてコンドリオソームという言葉も考案しました。

しかし、後世の人々はコンドリオコンテンという名前はきれいさっぱり忘れてしまったようで、ミトコンドリアとコンドリオソームを同義語として使いました。

ベンダとメフェスの説は後のかなり見当違いであることが明らかになりはするのですが、こうして本格的な研究に端緒をつけたおかげで、後世のミトコンドリア研究では彼らが考案したミトコンドリアもしくはコンドリオソームが一般的に使われるようになりました(もっとも、1950年代でもサルコソームと書いている論文もあるので、他の名称があっという間に廃れたということでもなさそうです)。

なお、コードリーによると、20世紀初頭ではコンドリオソームが主流で、ミトコンドリアと呼んでいたのはベンダとアメリカのベンスリーくらいだったそうです。


ミトコンドリアという名前が主流になった時期や、そうなった理由については今回の調査ではわかりませんでした。しかし、固定の失敗によるアーティファクトではないかという疑惑を生きている細胞のミトコンドリアを染色して見せることで払拭したり、ミトコンドリアを単離する方法を考案したりして、初期のミトコンドリア研究のターニングポイントに深くかかわったベンスリー達がミトコンドリアという名前を好んで使用したいたことに関係があるのかもしれません。

参考文献

  1. Kölliker A., Einige Bemerkungen über die Endigungen der Hautnerven und den Bau der Muskeln., Zeitschrift für wissenschaftliche Zoologie, 8, 311-325 (1857)
  2. Cavers F., Chondriosomes (Mitochondria) and Their Significance., New Phytologist, Vol. 13, No. 3, pp. 96-106 (1914)
  3. Slater E. C. and Cleland K. W., Stabilization of Oxidative Phosphorylation in Heart-Muscle Sarcosomes., Nature 170, 118 - 119 (1952)
  4. Cowdry E. V., Historical Background of Research on Mitochondria., Journal of Histochemistry and Cytochemistry, Vol. 1, Issue 4, 183-187 (1953)

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