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バイオダイレクトメール vol.67 細胞夜話
<第29回:pBR322のpとpUC19のpは別物? - pBR322、pUCベクター>

遺伝子の単離と操作、DNAの塩基配列決定といった実験にはPCRがつきものです。現代の研究者の感覚からすれば、PCRなしでそれらの作業を行う不便さは想像の地平の彼方、といったところではないでしょうか。しかし、1983年のPCRの発明以前にも、そのような研究は行われていました。そんな時代には何をしていたのかというと、とにかく切って、ベクターに入れて、大腸菌に放り込む、という何とも時間のかかる方法が多かったのです。

空き時間の内職で、、、

とにかく、切ってつないでまた切って、、、

pBR313

さて、話は現在から見れば牧歌的とも言える実験風景が展開されていた、そんな1970年代にさかのぼります。

1975年にカリフォルニア大学のハーバート・ボイヤーの研究室に加わった、フランシスコ・ボリバルもそんな気が遠くなりそうな研究の1つに遭遇しました。特定の遺伝子の単離と操作を目的とした研究には、研究室のたいへん優秀なメンバーが精力的に取組んでいたのですが、その進展ははかばかしくありませんでした。ボリバルの見たところでは、クローニングベクターの使いにくさと、制限酵素およびT4 DNA Ligaseの純度の低さがボトルネックになっていました。そこで、ボリバルのほかその研究室に所属する何人かが新しいベクターを開発しようとしました。

しかし、当然のことながらボイヤーはその話にあまり乗り気ではありません。すでにpMB9という自家製ベクターがあり、それを使った系で一応実験は進んでいるので、いまさら実験系の変更などしたくないが人情というものです。

とはいうものの、今日の感覚でそのpMB9を見てみると、お世辞にも使いやすそうとは言いがたい代物です。1977年の論文に掲載されていたpMB9のマップによると、シングルカットの制限酵素サイトはEcoR I、Hpa I、Sma I、Hind III、BamH I、Sal Iでした。今日広く使われているアンピシリン耐性遺伝子はもっていませんが、その代わりにテトラサイクリン耐性遺伝子があります。ここまではそれほど悪くなさそうですが、シングルカットの制限酵素のうち、Hind III、BamH I、Sal Iは、テトラサイクリン耐性遺伝子の内部にあり、実は安心して使える制限酵素はEcoR I、Hpa I、Sma Iの3種類だけでした。また、サイズも大きく5.3 kbもありました。

そこで、ボリバルたちはpMB9にアンピシリン耐性遺伝子を導入することにしました。アンピシリン耐性遺伝子を導入すれば、テトラサイクリン遺伝子内部の制限酵素サイトも使えるようになります。しかし、上司のボイヤーは前述のように既存のpMB9を置き換えようという試みには難色を示していましたので、ボリバルたちは新しいプラスミドの構築を研究の空き時間に進めるしかありませんでした。そんな内職の成果として、pMC9にアンピシリン耐性遺伝子を組込んだベクター、実際に構築した2人、ボリバルとロドリゲスのイニシャルをとってpBR313ができあがりました(従って、pBRはplasmid constructed by Bolivar and Rodriguezといった意味になります)。

しかし、pBR313は制限酵素断片を組込むところでは便利になったものの、サイズが8.6 kbとさらに巨大化してしまい(大きい分子は小さい分子より大腸菌に入りにくいため)、あまり喜べない結果となりました。また、アンピシリン耐性遺伝子は、他のベクターのトランスポゾンの配列がそのまま入っており、転移してしまう可能性もありました。

pBR322

ボリバルたちは、pBR313の改善に取組みました。構築済みのpBR313をさまざまな制限酵素で消化して、その産物同士をさまざまな組み合わせで結合させた結果、既存のpMB9よりサイズも小さく(4.4 kb)、転移も起こさない安定したベクター、pBR322が完成しました。

pBR322はそれまでのpMB9の問題を見事に解決していることから、それまでは難色を示していたボイヤーも熱心な支持者に変身しました。ボイヤーは研究者コミュニティにpBR322を広めることに尽力し、世界中の300もの研究室にこのベクターを行き渡らせたそうです。

pUCはM13のオマケ?

時は流れて1970年代末。あいかわらずPCRはありませんが、この頃には、プライマーウォーキングやショットガンシークエンスによる塩基配列決定が行われるようになっていました。カリフォルニア大学に在籍していたヨアヒム・メッシングもショットガンシークエンスによる塩基配列決定を行っていましたが、前述のボリバルと同様に、使用するベクターに問題を感じていました。ネイティブのファージDNAをベクターとして使っていたので、目的のDNA断片はファージDNA上に分散した制限酵素サイトに挿入されることになります。その結果として、シークエンス用のプライマーが制限酵素サイトごとに必要になってしまい、実験が煩雑な上にコストもかかってしまうのでした。

そこで、メッシングはM13ファージの改良に取組むことにしました。ユニバーサルプライマーが使えるようにマルチクローニングサイトを導入し、ブルーホワイトセレクション用に大腸菌のlacオペロンも組込んだM13mp7を完成させました。メッシングはその結果を1980年にPNASに投稿しますが、結果はリジェクト。理由は、あまりにもトリビア(つまり、些細な研究)、ということでした(最終的にメッシングの論文は、翌1981年にNucleic Acids Researchに掲載されました)。

M13系のベクターの改良を続ける傍ら、メッシングは新しいプラスミドベクターの構築にも取組みました。M13はファージベクターなので、シークエンスするにはファージ粒子からDNAを抽出することになり少々面倒です。大腸菌から直接プラスミドDNAを精製してシークエンスに持ち込めれば、それに越したことはありません。

メッシングはpBR322と彼が改良したM13系ファージベクターM13mp7を起点として実験を行い、最終的にpBR322からアンピシリン耐性遺伝子周辺と、プラスミドの複製に必要な配列、M13mp7からはマルチクローニングサイトを含むlacオペロンを取り入れたプラスミドベクターが完成しました。メッシングはこの一連の実験でつくったベクターをpUCと命名しました(このような経緯で構築されたため、pUCベクターに挿入したDNA断片のシークエンスにM13プライマーを使うことができるのです)。

pUC19とJM109は兄弟?

その後もメッシングは、大腸菌とベクターのセットによるシークエンス用の系全体の改良を続けました。1985年にGeneに掲載された論文では、改良したpUC系ベクターであるpUC19と制限系のない大腸菌JM109を報告しています(もっとも、1985年の論文のかなりの部分は改良したM13mp18ベクターと大腸菌の話が多くを占めていますので、メッシングにとってはpUC19はオマケ扱いだったのかもしれません)。

pUCの意味ですが、UCについては明らかです。1982年の論文で、「プラスミドの研究はカリフォルニア大学デービス校に滞在している間に始めたので、その初期のプラスミドから派生したプラスミドはpUCと名付けた」と書いています。従って、UCはUniversity of Californiaの略であることは間違いありません。pは普通に考えればplasmidのpだと思われますが、ウィルソンとウォーカーの生化学と分子生物学の教科書(Principles and Techniques of Biochemistry and Molecular Biology)によると、pUCは「produced at University of California」の略だそうです。

ちなみに、JM109など一連の大腸菌についているJMは自分のイニシャルであるとメッシング自身が書いています。

参考文献

  1. Bolivar F., Rodriguez R., Betlach M. C. and Boyer H. W., Construction and characterization of new cloning vehicles. I. Ampicillin-resistant derivatives of the plasmid pMB9. Gene, Vol. 2, 75-93 (1977)
  2. Bolivar F., Rodriguez R., Greene P. J., Betlach M. C., Heyneker H. L. and Boyer H. W., Construction and characterization of new cloning vehicles. II. A multipurpose cloning system. Gene, Vol. 2, 95-113 (1977)
  3. Bolivar F., Citation Classic, Current Contents, 47, p12 (1990)
  4. Messing J., Crea R. and Seeburg P. H., A system for shotgun DNA sequencing. Nucleic Acids Research, Vol. 9, No. 2, 309-321 (1981)
  5. Vieira J. and Messing J., The pUC plasmids, an M13mp7-derived system for insertion mutagenesis and sequencing with synthetic universal primers. Gene Vol. 19, 259-268 (1982)
  6. Yansch-Perron C., Vieira J. and Messing J., Improved M13 phage cloning vectors and host strains: nucleotide sequences of the M13mp18 and pUC19 vectors. Gene, Vol. 33, 103-119 (1985)
  7. Messing J., Citation Classic, Current Contents/Life Science, 12, p11-12 (1992)

細胞夜話作者の余談

  • メッシングはM13の改良に際して、ようやく実用的になってきた合成DNAも使っています。その当時のDNA合成作業は大変に時間がかかるものだったらしく、メッシングによると、合成したDNAを待っている間に昔ながらの方法でウイルス遺伝子に変異を導入して制限酵素サイトをつぶす仕事をした、そうです。

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