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バイオ医薬品開発における
Design Space(設計領域)

バイオ医薬品メーカーは、少しでも早く医薬品を市場に送り出すことを目指しています。上市にいたる新薬の割合は10,000製品のうちわずか1製品で、研究開発費は合計8億米国ドルにものぼると推定されているため(1)、多くの経営者は開発を急ぎ、コストを最小限に抑える必要性を感じています。しかし、プロセス開発はが不十分であると、度重なるバッチ不良を招き、その品質のばらつきゆえに、臨床試験が失敗となることがあります。こうした背景で現在、規制当局と製薬業界双方の最近の規制関係文書や発表からもうかがえる通り、根拠に基づいた新薬開発に注目が集まっています。


Design Space(設計領域)

2005年11月に製剤開発ガイドラインICH Q8が策定されました(2)。ICH Q8は、全世界の規制当局への申請を簡素化するためのCommon Technical Document(CTD)の新薬開発の項に関するガイダンスです(3)。ICH Q8は適切な開発の重要性を強調し、デザインの段階で品質を考慮する必要性を指摘しています。また、「Design Space」の概念について述べており、これを「品質を保証できる、入力変数およびプロセスパラメーターの多次元的な組み合わせおよび相互作用」と定義しています。

製薬業界はこの概念に理解を示しつつ規制当局との議論を進めています。申請者は当局による承認の対象となるDesign Spaceを提示する責任がありますが、承認後は、そのDesign Spaceの範囲内で作業する限り変更とはみなされません。これによって製薬企業は、長い承認期間を待たずに既承認薬に変更を加えることができるようになります。このような変更により、製品の生産性や費用効率、製品の品質向上を行うことが可能となります。

Critical Process Parameters (重要工程パラメーター)

製品または製品群に対するDesign Spaceを定義するためには、Critical Process Parameters(CPP)および重要な品質特性を理解する必要があります。この理解は研究開発段階で行うものですが、多くの場合は理解を深めるのに必要な時間を確保できません。特性解析試験(頑健性試験)は必須で、通常は開発中に実施します。ここでは、各プロセスパラメーターに関して個々の試験を実施し、品質特性に及ぼす影響を個別に評価するという難解な手法に代わって、Design of Experiments(DOE, 実験計画法)などの統計学的な手法が用いられています。

統計学的な手法を利用する以外に、Design Spaceを短期間で定義しうる近道はありません。しかし、プラットフォーム技術を採用することによって、多くの場合新薬とプロセスのDesign Spaceを確認する際の特性解析試験の範囲を絞ることができます。Design Spaceを変更しなければならない場合もありますが、プラットフォーム技術に熟知した企業はほぼ例外なく重要なプロセスパラメーターや重要な品質特性の基本を理解しているため、新規プロセスを短期間でデザインすることが可能です。

品質リスクマネジメント

では、プラットフォーム技術を採用していない企業はどうなるでしょうか。プロセスの特性解析試験では、すべての重要なプロセスパラメーターのほか、製品の品質を確保するパラメーター範囲を決定する必要があります。新薬および新規プロセスに対しては、最初にリスクアセスメントを実施し、次に潜在的リスクが最小限になるようプロセスをデザインします。ICH Q8で指摘しているように、新薬の研究開発中に得た情報が品質リスクマネジメントの基礎となるのです。ICH Q9においては、品質リスクマネジメントの利用について、開発におけるその価値を中心に議論されています(4)。すなわち、リスクマネジメントにより、製品の品質のほか、必要な性能を有する製品を一貫して供給する製造プロセスをデザインすることができるのです。

たとえば、哺乳類細胞由来のバイオ医薬品にはウイルス汚染という潜在的リスクがあります。この場合、ウイルスクリアランスが一定となるDesign Spaceを定義すれば、製品の安全性に対する信頼性が高まります。臨床試験に使用するバイオ医薬品のウイルス安全性評価に関する会議では、ウイルスクリアランスの頑健性が議論され、ウイルスクリアランスの頑健性は、「Design Space」範囲内の変更が製品の品質に影響しないことの予見可能性であるとして定義されました(5)。特定すべき他のリスクとして、原料(宿主細胞由来タンパク質や化学物質の不純物など)に関連するリスクがあります。原料のマイコプラズマ汚染も、最小限に抑える必要があるリスクの一例です(6)。

リスクの低減には、製品の安全性を高める新規技術を継続的に評価することが必要です。複数のウイルス負荷とPCR技術を組み合わせて使用したところ、開発段階でのウイルス除去に関するDesign Space評価の能力が高まりました。多くのバイオテクノロジープロセスにおいてバイオバーデン管理が非常に重要な問題であるため、迅速な微生物学的手法の利用もまたDesign Spaceの開発を促進します。バイオテクノロジーを用いた製剤の製造プロセスに新たな工程を追加する場合、その製剤が既承認製品であってもリスクマネジメントを行う必要があります(7)。

バイオ医薬品開発に対する行政支援

医薬品開発の規制の厳しさを知っている方々なら、「私は御社を助けるためにFDAから来ました」と言われ、失笑したご経験があるかもしれません。しかし実際には、FDAや他の規制当局は新薬を開発する企業に対して非常に有用な情報を提供しています。EMEA(欧州医薬品審査庁)の新しい中小企業(SMEs: Small and Medium Sized Enterprises)局はその一例です。EMEAに問い合わせると、手続きと薬事の両面について指導を受けることができます(8)。FDAは、よくある質問(FAQ)と頻発する問題の解説をリストとして発表することで、治験前相談を希望する企業を支援しています(表1)。よくある問題としては、CMC情報の不備や前臨床における裏付けの不足があります。

表1. FDAウェブサイトに掲載されている治験前相談に関する有用情報(9)
「迅速承認」および「オーファンドラッグ」などの用語の定義
新薬開発における治験前相談の役割
治験前相談時の要請事項と書類に盛り込む必要のある情報
治験前相談で多く認められる問題

新薬開発の促進に関して他にFDAが実施した近年の取り組みは、テロ対策医薬品に見ることができます。最近の治験前相談で発表されFDAのウェブサイトに公開されている情報の中には、最新の治験薬に対するFDA生物製剤評価研究センター(CBER: Center for Biologics Evaluation and Research)の取り組みに関する説明があります(10)。また、最近発表されたガイダンス案では、第I相試験における現行GMPの遵守に関するFDAの期待が詳細に述べられています(11)。

全世界の規制当局は、製剤開発を非常に重視しており、結果として、特性解析試験は開発プロセスの重要なパートとなりました。開発者側も、研究開発の内容に基づいてDesign Spaceを定義し、その領域を維持することによって、製品の安全性および一貫性を向上させることができます。このように、DesignSpaceの概念は、医薬品開発・製造において非常に重要な概念だということができます。

参考文献

1. Goodfellow, G. et al., Nonclinical safety assessment of new drugs and therapeutic proteins. RA Focus December, 7.12. (2005)
2. ICH Harmonized Tripartite Guideline. Pharmaceutical Development Q8. Step 4 version [Internet]. Geneva (CH): ICH Secretariat; 10 November 2005 [cited 14 April 2006]. Available from: http://www.ich.org/LOB/media/ MEDIA1707.pdf
3. International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use [Internet]. Geneva (CH): ICH Secretariat; [cited 2006 April 14]. Available from http://www.ich.org/cache/ compo/276-254-1.html
4. ICH Harmonized Tripartite Guideline. Quality Risk Management Q9. Step 4 version [Internet]. Geneva (CH): ICH Secretariat; 9 November 2005 [cited 14 April 2006]. Available from: http://www.ich.org/LOB/media/ MEDIA1957.pdf
5. PDA Viral Safety Evaluation of Biotech Products Used in Clinical Trials, December 1, 2005. Langen, Germany. (further information is available at http://www.pda. org/viral2005/index.html)
6. Geigert, J., Mycoplasma contamination in manufacturing operations originating from plant-derived materials. PDA Letter XLI (10), 11.15 (2005).
7. EMEA/CHMP/96268/2005, Guideline on Risk Management Systems for Medicinal Products for Human Use [Internet]. London (GB): European Medicines Agency; 14 November 2005 [cited 14 April 2006]. Available from http://www. emea.eu.int/pdfs/human/euleg/9626805en.pdf
8. SME Offi ce: Addressing the needs of small and medium-sized enterprises (SMEs) [Internet]. London (GB): European Medicines Agency; c1995.2005 [cited 14 April 2006]. Available from http://www.emea.eu.int/SME/ SMEoverview.htm.
9. Frequently Asked Questions on the Pre-Investigational New Drug (IND) Meeting [Internet]. Washington (DC): Food and Drug Administration; 5 December 2005 [cited 14 April 2006]. Available from http://www.fda.gov/cder/about/ smallbiz/pre_ind_qa.htm.
10. Midthun, K. Expediting the Development, Availability, and Approval of Medical Products for Counterterrorism [Internet]. Washington (DC): Food and Drug Administration; 17 October 2005 [cited 14 April 2006]. Available from http://www.fda.gov/cber/summaries/ raps101705km.pdf
11. Guidance for Industry: INDs ― Approaches to Complying with CGMP During Phase 1 [Internet]. Washington (DC): Food and Drug Administration; 9 January 2006 [cited 14 April 2006]. Available from http://www.fda.gov/cder/ guidance/6164dft.pdf.


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