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Location:Home実験手法別製品・技術情報2D DIGE(蛍光標識二次元発現差異解析)

Dr. 近藤のコラム 2D-DIGEの熱い心
「プロトコールの次に必要なもの」

連載を通して

筆者は皆と同じ実験室兼居室で一日中仕事をしている。したがって、ラボメンバー全員の実験の動きをだいたいすべて横目で見ている。月曜日から土曜日まで無駄なくきちんと立てた計画を黙々とこなし続ける方、1日10時間以上のレーザーマイクロダイセクションを毎日行う方、1週間84枚のペースで巨大ゲルをがんがん泳動し続ける方、14時間連続マッチングを連日行う方、週300サンプルの手間のかかるIn-gel digestionをしつつ3台のLC-MS/MSの稼働とデータ整理をこなす方、1,000抗体ウェスタンを完璧にこなす方、レジデント全員の実験指導をしつつラボ業務を支える方、など、いつも感心して見ている。同じ空間で同じように働いているつもりでも、スタッフの間に個人差がないわけではない。むしろこれだけ実験をすれば個人差が浮き彫りになってくる。ここで言う個人差とは、実験の進め方や動き方そして周りのスタッフとのコミュニケーション能力である。

個性の背景には今までの経歴がかなり関係していそうである。たとえば、ラグビー、サッカー、ハンドボール、バスケットボールなど集団球技の経験者はコミュニケーション能力が高い印象を受ける。概して外科医の方々は周りの人と調整を図り中心的に実験を進める点で秀でている印象がある。話好きな内科医の方々は上手に技術スタッフの支援を受けているようである。臨床を背景にもたないスタッフで新しい実験系をきわめて高度にこなしている方々は、何かしらの本格的な趣味を高いレベルでもたれているようである。過去の経歴があるから実験がうまいのか、全般的に優れた方の能力の一端が実験室で表れているのか判断し難いところである。たとえば、臨床医が例外なくきわめて短期間に実験操作を習得できているのは、過去に手術の手技や内視鏡などの検査技術を習得するという経験を積んでいるからではないかと推測している。 一方、ラボに来る臨床医は多くのセレクションを突破した方なので、もともとの能力が高いということもあるだろう。いずれにしても、実験を始める前の長年の経歴は変えようがなく、プロトコールが同じあってもそれを読んで実行する過程は実験者によって変わってくることは自然なことだと考えられる。

実験全体の運用の過程はともかく、実験はプロトコールに基づいて個人差なく遂行されなくてはいけない。そのためには、どこまでマンツーマンの指導が必要なのかがまだよくわからない点である。プロテオミクスの実験は生まれて初めてという方が筆者のラボではほとんどなので、数回の実技指導は最低限必要である。しかし、すでにある程度の研究歴をもっている研究者の場合は一般的にどの程度の直接指導が必要なのかが知りたいところである。

この点を明確にするために必要なものは、ラボ外の研究者からのフィードバックである。連載されたプロトコールを読んだけどうまくいかなかった、わからない点があったという意見をいただきたい。そのこともあって、この1年間の連載の結果をまとめ、もっとわかりやすくした実用的な実験書を計画している。フィードバックを受けてさらにそれを返す仕組み作りにも取り組みたい。

「多様な背景をもつ研究者が同じように高いレベルで同一のプロトコールに基づいて実験を行い、得られた結果を集積して統合的に解析する」、という研究体制が、プロテオーム解析では求められている。2D-DIGEのデータに限らず、高額な試薬・機器と貴重なサンプルから得られたデータは、研究者間で共有して有効に活用するべきである。そのような考えから筆者はGeMDBJ Proteomicsというプロテオームデータベースの構築を行っている。HUPOでも実験データの標準化を目指したプロジェクトが進行している(Proteomics Standard Initiative, Human Proteome Organization)ことから、同じようなアイデアをもつ研究者は多いのだろう。本連載の活動を発展させ、プロテオームデータの共有にこれからも貢献していきたいと考えている。

最後に

1年間の連載を終えるにあたり、まず執筆・撮影に協力していただいたラボのメンバーにお礼を申し上げたい。中でも提出前の原稿チェックを毎月行っていただいた藤江(小堀)由希子氏の貢献は大きかった。彼女の参加なしには正確な記述はありえなかっただろう。

執筆を通じて改めて認識したことは、実験系の確立には実に多くの方が関わってきたという事実である。「指導」という一方通行の行為で情報伝達が終わっていたのではなく、わかりにくいところ理解し難いこところ間違いやすいところ、などがフィードバックされ継承されていたのは今までのラボメンバーのおかげである。リーダーとしてとしてこのような認識に至ったというのが、自分にとって本連載の最大の成果だと感じている。


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