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Location:Home実験手法別製品・技術情報タンパク質サンプル調製・前処理

タンパク質の抽出・細胞破砕法

Sample Grinding Kit写真ここではタンパク質の抽出・細胞破砕法についてご紹介します。「タンパク質抽出手法の概要」では、各手法の特徴や対象サンプルを中心に一般プロトコールも記載していますので、ぜひ参考になさってください。また、タンパク質抽出時に最も気を配らなければならない「プロテアーゼによる分解」についてもご紹介しています。

このページの目次


タンパク質抽出方法の概要

タンパク質の抽出は、用いる試料(大腸菌、動物由来細胞、植物組織など)と目的タンパク質の局在(細胞質、細胞壁、培養上清など)に応じて、最適な方法を選択する必要があります。一般的に用いられる方法について、「温和な条件でのタンパク質抽出方法」と「より強力なタンパク抽出方法」に分けて例を挙げます。

温和な条件でのタンパク質抽出方法

ここで挙げる細胞溶解法は、培養細胞・血液細胞・微生物など簡単に破砕できるサンプルでよく用いられます。また、細胞の特定画分( 細胞膜、核、細胞質など)のみを調製するときにも用いられます。

浸透圧で溶解した細胞を酵素処理する方法や界面活性剤存在下で凍結解凍する方法など、これらの手法をいくつか組み合せた方法も有効です。

浸透圧ショック法

サンプルを滅菌水などの低張溶液に懸濁する方法です。

【特徴】

オルガネラの破壊が抑えられるため、抽出溶液へのプロテアーゼ混入が抑えられます。タンパク質の回収率はあまりよくありません。

【適用サンプル例】

培養細胞(細胞質タンパク質)、大腸菌ペリプラズム、血液細胞

凍結融解法

細胞懸濁液を液体窒素で急速に凍結したのち、解凍させるショックでタンパク質を抽出します。十分に溶解するまで最低2回以上くり返して行います。

【特徴】

非常に簡便な操作でタンパク質を抽出できます。失活をともなうことが多く、タンパク質の活性が重要な実験ではあまり用いられません。

【適用サンプル例】

細菌、培養細胞

界面活性剤の使用

界面活性剤を添加することで、疎水性の高いタンパク質の溶解性を高めます。細胞溶解液に直接添加することもありますし、膜タンパク質精製を行う場合には、先に膜画分を調製してから添加することが一般的です。

界面活性剤は極性基により非イオン性、陰イオン性、陽イオン性、両イオン性に分類されます。クロマトグラフィーや二次元電気泳動のサンプル調製では、非イオン性および両イオン性界面活性剤が主に用いられます。

【特徴】

可溶化を促進します。特に膜タンパク質や難溶性タンパク質の溶解には有効です。また、タンパク質構造が部分的にほどかれるため、プロテアーゼによる消化を受けやすくなります。

【適用サンプル例】

培養細胞・組織(膜タンパク質・難溶性タンパク質)

酵素消化法

酵素処理により難溶性の細胞壁を破壊する手法です。それぞれの細胞に特異的な酵素を使用します。しばしば、機械的な破砕法と組み合わせて用いられます。

【特徴】

効率的にタンパク質を抽出することができます。小スケールのサンプル調製に向いています。

しかし、これらはタンパク質であるため夾雑物となります。以降の実験で簡単に除去が可能なアフィニティー精製前の抽出方法として向いています。

【適用サンプル例】

細菌細胞(リゾチーム)、植物細胞(セルラーゼとぺクチナーゼ)、酵母細胞(リチケース)

マークリゾチームを用いた大腸菌タンパク質の抽出 一般プロトコール

  1. 大腸菌培養液を4℃、3,000×g、15 min遠心する。
  2. 大腸菌ペレットを回収し、培養液の1/20量のLysisバッファー*で速やかに懸濁する。
  3. 1/50量のリゾチーム溶液を添加し、氷上で30 min穏やかに撹拌する。
  4. 1/50 ~ 1/10容量の10% Triton X-100を加え、4℃でさらに20 min撹拌する。
  5. 30 min、12,000 × g 、4℃で遠心し、細胞片や不要物を除去する。
  6. 上清を回収する

*Lysisバッファー: 50 mM Tris-HCl or Phosphate, 150 mM NaCl, 1 mM PMSF, pH8.0
リゾチーム溶液: 10 mg/mlリゾチーム in 20 mM Tris-HCl, pH8.0

タンパク質抽出用キットの使用

各メーカーよりタンパク質抽出用のキットが販売されています。

【特徴】

サンプル種や解析対象タンパク質によって最適化されている製品が多くあります。用途や解析対象にあわせてキットを選択することで、簡便に抽出操作を済ませることができます。また、再現性も期待できます。

【適用サンプル例】

多種多様(サンプルに応じて適した製品を利用します)。

2D Protein Extraction Buffer 製品写真

二次元電気泳動用サンプル抽出キット
2D Protein Extraction Buffer

組成の異なる6種類の溶液により、さまざまなタンパク質抽出に対応します。

ほ乳類培養細胞からのタンパク質抽出に
Mammalian Protein Extraction Buffer

調製済みバッファーで再現性の高いタンパク質抽出を実現します。

ガラスビーズは使わない穏和な抽出条件で
Yeast Protein Extraction Buffer Kit

Zymolaseを利用したスフェロプラスト化による酵母タンパク質抽出キットです。

より強力なタンパク質抽出法

生体の組織・器官や細胞壁を持つ植物組織は溶解しにくいため、強力な細胞溶解法を用います。この方法では細胞が完全に破砕され、熱が発生するので、サンプルの温度が上がらないように特に注意してください。

超音波処理

超音波のせん断力により細胞を破壊します。

【特徴】

小スケール(~100 ml程度)のサンプル調製に向いています。溶解効果は高く、封入体を形成する際の抽出懸濁にも効果があります。操作中は熱と泡が発生しタンパク質の変性を招くため、氷中で冷却しながら短時間で処理します。

また、タンパク質と一緒にDNAが抽出され粘性を持つ場合があるため、希釈、バッファーへの酢酸マグネシウムの添加、ヌクレアーゼの添加などの方法で対処することができます。

【適用サンプル例】

すべての細胞タンパク質

マーク超音波処理による大腸菌タンパク質の抽出 一般プロトコール

  1. 大腸菌培養液を4℃、3,000×g、15 min遠心する。
  2. 大腸菌ペレットを回収し、培養液の1/20量の溶解バッファーで速やかに懸濁する。
  3. 氷上でチューブを冷却しながら、10 ~ 15秒ずつ数回に分けて超音波処理を行う。
  4. 十分に溶解するまでくり返す。
  5. 30 min、12,000 × g 、4℃で遠心し、細胞片や不要物を除去する。
  6. 上清を回収する

フレンチプレス

細胞懸濁液を高圧下で強制的に小穴から押し出して、せん断力により細胞を破壊する方法です。あらかじめ冷却しておいたフレンチプレス用小室に細胞懸濁液を入れ、圧力をかけて押し出されたライセート( 細胞溶解液)を回収します。

【特徴】

酵母などの強度の高い細胞を破砕できることや、タンパク質抽出の再現性が良いことが特徴です。処理中は気泡が発生しにくく、失活も起こりにくいです。

【適用サンプル例】

細胞壁のある微生物 (細菌、藻類、酵母)、植物細胞

乳鉢による粉砕

乳鉢と乳棒を使用してすりつぶします。通常は組織や細胞を液体窒素で凍結し、細かい粉になるまですりつぶします。アルミナや砂を加えるとより効率良く破砕できます。

【特徴】

特別な機械を使わずにタンパク質を抽出できる手法です。再現性よく抽出を行うには、細心の注意が必要です。

【適用サンプル例】

実質性組織、微生物

ホモジナイザーによる破砕

組織を機械的にホモジナイズする器具には、いろいろな種類があります。手で持って操作するタイプのDounceホモジナイザーやPotter-Elvehjemホモジナイザーは、細胞懸濁液や比較的破砕しやすい組織用です。ブレンダーやその他のモーター付器具は、大容量のサンプルに使用します。

【特徴】

総じて核やミトコンドリアなどの細胞小器官を破壊せずにタンパク質を抽出できる手法であり、用いる装置や細胞の種類により抽出できるタンパク質範囲は変わります。

【適用サンプル例】

細胞壁のある微生物 (細菌、藻類、酵母)、植物細胞

マークホモジナイザーによるタンパク質の抽出 一般プロトコール

  1. 組織を刻んで小片にする。
  2. 3~5倍量の冷えたホモジナイゼーションバッファーを加える。
  3. 氷中において短時間でホモジネートする。
  4. ライセートをろ過または遠心分離して不溶物を除去する。
  5. 上清を回収する。

マークホモジナイザーと超音波破砕を組み合わせたプロトコール例(ラット肝臓サンプル)

  1. 凍結したラット肝臓1 gに、10 mlの細胞溶解溶液*を加える
  2. ダウンス型ホモジナイザーを用いて氷上でサンプルを破砕する。
  3. 細胞が溶解されるまで断続的に30秒ずつ3~4回超音波処理を行う。
  4. 4℃、12,000×g、15分間遠心する。
  5. 上清を回収し、4℃、100,000×g、60分間遠心する。
  6. 上清を回収する。

*細胞溶解液組成: 30 mM Tris(pH8.5), 7 M尿素, 2 Mチオ尿素, 4%CHAPS, 5 mM酢酸マグネシウム

ガラスビーズによる破砕

研磨作用のあるガラスビーズを用いて細胞壁や細胞膜を破砕します。酵母からのタンパク質抽出によく用いられます。

【特徴】

短時間で抽出を行うことができます。~数十ml 程度の小スケールサンプルに向いています。

【適用サンプル例】

細胞懸濁液、微生物、酵母

マークガラスビーズによるタンパク質の抽出 一般プロトコール

  1. サンプル溶液と等量の冷却した細胞溶解液に細胞を懸濁する。
  2. 懸濁液1 gあたり1~3 gの冷却したガラスビーズを加える。
  3. 1分ボルテックスし、1分氷中に静置する。この操作を2~4回くり返す。
  4. ライセートをろ過または遠心分離して不溶物を除去する。
  5. 上清を回収する。

Sample Grinding Kitによる破砕

Sample Grinding Kit 製品写真ペッスル(すりこぎ)とマイクロチューブのタンパク質抽出キットです。破砕用のビーズレジンも含まれています。

【特徴】

マイクロチューブ中のレジンが破砕効率を高め、短時間で処理が可能です。

【適用サンプル例】

細胞懸濁液 (100 mgまでのサンプルを処理可能)

プロテアーゼによる分解を抑えるには

細胞を破砕すると内在性のプロテアーゼが細胞から放出されます。目的のタンパク質が分解されないようプロテアーゼ活性を阻害する必要があります。

プロテアーゼの阻害方法としては、以下のような手法が用いられています。実際にはこれらの方法を組み合せることで、プロテアーゼによる分解を効果的に阻害する方法がとられています。

変性剤を用いる

8 M 尿素や10%TCA、2%SDSなどの強力な変性剤を用いて直接溶解し、プロテアーゼの働きを阻害する方法です。

しかし、これらの条件下では目的のタンパク質も変性させてしまう可能性があるため、活性が重要となる実験系では事前にその条件下での安定性を確認する必要があります。

低温下で操作する

37℃付近で最大活性を持つプロテアーゼが多いため、低温で操作することで活性を低下させることができます。

塩基性条件下でのサンプル調製

大部分の内在性プロテアーゼはpH9以上では活性をもちません。Trisバッファー、炭酸ナトリウム、塩基性のキャリアアンフォライト混合物の存在下でサンプルを調製することでも阻害できます。

プロテアーゼ阻害剤を添加する

プロテアーゼ阻害剤(プロテアーゼインヒビター, Protease Inhibitor)は特定のプロテアーゼのみに作用します。一種類の阻害剤のみではタンパク質分解の抑制が不十分であるため、何種類かの阻害剤を組み合せて使用します。

一般的によく用いられるプロテアーゼ阻害剤の特徴を表に示しましたので、ご参照ください。

関連製品

サンプル調製イメージ

95%のプロテアーゼ活性を阻害
Protease Inhibitor Mix (1 ml)

至適化された濃度と阻害剤の組合せにより、効果的にプロテアーゼ活性を阻害します。100倍希釈してお使いください。



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