Cytiva

検索のヘルプ

Location:HomeHot Newsトレーニング/セミナー/シンポジウム情報

Life Sciences Day 2015 ポスター賞受賞者インタビュー
膜タンパク質と抗体のキネティクス解析を簡便に
汎用性高く実施できる系を目指しています

田窪 桂子 様

大日本住友製薬株式会社 ゲノム科学研究所

田窪 桂子 様

Life Sciences Dayでは、参加者の皆さまの投票により優秀者を決めていただくポスター賞を設けております。Life Sciences Day 2015で見事ポスター賞を受賞された大日本住友製薬株式会社の田窪様にお話を伺いました。
抗体薬品に携わってらっしゃる方が、必ず通る膜タンパク質と抗体のカイネティクスの測定。サンプル調製に関する工夫と、Biacore™でのカイネティクス測定のメソドロジーについて、熱いディスカッションが繰り広げられたようです。


膜タンパク質に対するカイネティクス解析のニーズの高さを実感しました

ポスターでは、リポパーティクル、ナノディスクという二つの技術を用いた膜タンパク質と抗体のカイネティクス解析、相互作用解析について報告しました。「他の製薬会社のユーザーにも有用で、反響が大きいはずなのでポスター発表しませんか」と貴社の担当者から打診があったとき、社外の幅広いニーズを知り、本法の発展性を議論したいと思い参加しました。発表当日は、予想以上に非常に多くの方に興味を持っていただき議論することができました。他社でも同じように取組んでみたけれど苦労され、高い関心をもって情報収集をされている、また、より汎用性高く、膜タンパク質の種類によってリポパーティクルあるいはナノディスクを確度高く選択できればさらに応用の機会が増えることがわかりました。同様の実験を試しやすいように条件を詳細に記載したところ多くの方に細部まで見ていただき、ユーザーならではの深いディスカッションをとおして非常に楽しく有意義な時間を過ごすことができました。

リポパーティクルとナノディスクを用いた膜タンパク質の相互作用解析

まず1つ目にリポパーティクルを用いて抗体と天然リガンドとの競合アッセイをした結果を紹介しました。リポパーティクルは細胞膜からウイルス様粒子として分泌させたもので、簡便に高密度な機能性膜タンパク質を得る手法です。目的のタンパク質とGagタンパク質を共発現させると、Gagの作用で細胞膜から粒子が出芽する原理を利用したものです。動物細胞発現系を使用するためタンパク質が本来の構造を保ちやすいのが利点です。粒子は直径が150 nm程度なので、Biacore™での測定におけるアナライトとして使用しました。抗体のセンサーチップへの固定化には抗IgG抗体を用いたキャプチャー法を採用したため、再生により複数の抗体を評価することができます。さらにリポパーティクルと天然リガンドを混合してアナライトとして流すと、抗体の抗原特異的相互作用を確認することができます。また、ポスターに詳細を掲載できませんでしたが、リポパーティクル側をSensor Chipに固定化してカイネティクス解析をする方法もデータが出つつあります。

2つ目の方法、ナノディスクは、アポリポタンパク質をハチマキ状に利用して人工脂質二重膜の周囲を束ねて安定化させたものです。ナノディスク1つにつき、膜タンパク質が1つ入ります。目的のタンパク質とアポリポタンパク質にそれぞれHisタグとFlagタグを付与しているため、2回の精製で純度が高く均質のサンプルを調製することができます。精製後、抗Hisタグ抗体によるキャプチャー法でナノディスクをセンサーチップに固定化し、抗体のカイネティクス解析を行った結果をポスターに掲載しました。細胞外ドメインに対しては同じkoffおよびKDを示していた複数の抗体を、ナノディスク上で全長を発現させた抗原に対して評価すると、異なるkoffおよびKDを得ることができました。より天然構造に近い膜タンパク質に対して、Biacore™ならではのカイネティクス解析により新たな抗体選抜基準を設けることができました。

田窪 桂子 様

膜タンパク質のカイネティクス解析方法の確立まで

当社が抗体と膜タンパク質との相互作用解析に着手したのは2009年のことです。2008~2010年頃に、ナノディスクの作製手法について多くの論文が、また、変異導入により安定的に可溶化できるGPCRやその結晶構造が報告されて、膜タンパク質を標的とした相互作用解析で盛り上がっていた時期でした。所属しているグループでは「膜タンパク質の相互作用解析」を目的として幅広く情報収集を行い、膜タンパク質の可溶化、(人工)膜再構成、評価対象として低分子化合物、抗体、それらに適した分析手法とそれぞれの角度から作戦を練り、取組みました。メンバー全員の協力による技術基盤研究の中で、ちょうどそのころキット化されたリポパーティクルやナノディスクにも着手しました。これらに共通する利点は、(1)膜貫通領域を含む全長タンパク質を膜に埋め込まれた状態で天然に近い構造を維持して調製できる、(2)溶液中で均一に分散し相互作用測定に適した物性をもつ、(3)比較的簡便に調製可能でタンパク質発現開始から3~4日でアッセイに持ちこめる点です。

Biacore™による相互作用解析系を立ち上げる際にはさまざまな苦労がありました。特にリポパーティクルの固定化では、アミンカップリングのほかに、両親媒性チップに串刺し状に固定したり、抗タグ抗体を固定化した後にリポパーティクルの可溶化サンプルを流して目的タンパクと細胞膜脂質をチップ上で同時に捕捉したりと思いつく限りの可能性を試しました。ナノディスクの固定化はタグを利用すると比較的容易と予測しましたが、それでも複数の方法を試す必要がありました。試行錯誤の結果、リポパーティクルとナノディスクのそれぞれに対して汎用性高くアッセイ可能な系をポスターにまとめましたので参考になりましたら嬉しく思います。

Biacore™の技術力と解析精度の高さが活きた結果です

リポパーティクル、ナノディスクともに膜成分を多く含みますので、リファレンスセルへの吸着を懸念する質問が複数の方からありました。実際にアナライトとしているリポパーティクルはセルに多少吸着しますが、ダブルリファレンスによるセンサーグラムの引き算を行うことでその影響を完全に差し引くことができます。分子間の特異的な相互作用データを正確に抽出することができるのは、Biacore™の高い技術力(流路系や温度の安定性など)に支えられたベースライン安定性や再現性に依存するもので、精度の高いデータに厚い信頼をおいています。
再現性についてはLife Sciences Dayの懇親会で企業研究員の方と話題になりました。「Biacore™データは再現性が非常に高く、再現性確認実験は実務上無駄な作業になるため実施しないことが多い、ところが、後で論文にする際にN=3のデータが手元になくて後悔する」という点で互いに共感しました。

田窪様、ポスター賞の受賞おめでとうございます。また、お忙しい中インタビューにご協力いただきましてありがとうございました。

※ポスターの公開は終了いたしました。

 


関連資料

リポソームおよび膜タンパク質の測定法紹介と参考文献リストアプリケーションダウンロード
PDFダウンロード

 


お問合せフォーム

※日本ポールの他事業部取扱い製品(例: 食品・飲料、半導体、化学/石油/ガス )はこちらより各事業部へお問い合わせください。