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Life Sciences Day 2015 ポスター賞受賞者インタビュー
医薬品開発の現場からの生の声が聞けた
自身の研究をさらに磨き上げる好機

臼井 公人 様

株式会社ゲノム創薬研究所 研究本部 創薬室

臼井 公人 様

Life Sciences Day では参加者の皆さまご自身に投票、優秀者を決めていただくポスター賞を設けております。2015年より新設された「先進的な技術を紹介していただくポスター枠」の中から、見事ポスター賞を受賞されたゲノム創薬研究所の臼井様にお話を伺いました。カイコを用いた抗生物質候補物質のユニークなスクリーニング手法が、Life Sciences Dayにご参加いただいた皆さまに広く興味を寄せていただきました。比較的短期間で治療活性のある薬剤候補物質を探索できたという事例もご紹介いただいています。


カイコの感染症モデルを用いた創薬

ポスターでは、カイコの感染症モデルを用いた新規薬剤候補物質の探索についお話させていただきました。カイコは人の病原性細菌に対して感染死することが知られています。また、治療薬を注射することで治療、回復させることができます。マウスでの投与でも人とは異なる結果が得られることがあるのに、しかもカイコで薬剤探索ができるわけがないとおっしゃる方もいらっしゃいます。しかし、カイコと哺乳動物との共通項目は多く、たとえばカイコはヒトの臓器に相当する器官をもっているため、ヒトの病態モデルを作ることも可能です。さらに、毒物に対する半数致死量(LD50)のオーダーも、哺乳動物と揃っています。なので、カイコを用いた薬剤探索は十分あり得ると考えています。


我々が行っているシステムの中で最もうまくいっているのは、感染症モデルを使用した新規抗生物質の探索です。まだ薬が見つかっていない病原性微生物をカイコに感染させ、薬剤候補物質を注射し、治療・回復するような物質は、確実に新規抗生物質と言えるのです。その具体的な例が、Nature Chemical Biology誌にも掲載されましたMRSAに対する「ライソシンE」という新規抗生物質です。この物質は、約1万5000株の土壌細菌の培養液 をカイコに投与し、感染死せずに、治療・生存したという治療活性を確認することで、見つかった物質です。マウスでも、治療活性が確認できており、作用機序も新規であることがすでに分かっています。


新規薬剤候補物質の探索において、試験管で活性があっても、治療活性がないということは多々あります。そのため、カイコは創薬を変える可能性がある技術だと思っています。通常の薬剤探索においては、 in vitroにおいて、スクリーニングし、その後構造新規のものを見つけてきて、さらに治療活性を見るという流れになります。構造新規化合物を見つけるのはものすごく大変で、最初から治療活性があるとわかっている物質を構造解析すればスピードもアップしますし、コストも削減できます。前述のライソシンEも比較的短期間で見つかりました。昨今、多くの製薬会社が抗菌薬領域から撤退し、薬剤の開発パイプラインが閉ざされている中、ぜひカイコを用いた薬剤探索技術を世の中に広めたいと思っています。

カイコの優位性

なぜカイコかというと、昔から日本では養蚕が盛んで、飼育技術が発達していることがあげられます。また、カイコは比較的大型の昆虫なので、取り扱いが簡単です。ハリを刺すために目を凝らす必要もなく、逃げまわったりしません。簡便かつ定量的にサンプルを注射することが可能です。他に、適した昆虫モデルはなかなか思い浮かばないです。線虫でも一匹ずつに一定量のサンプルを注射するのは難しいですし、ショウジョウバエは言わずもがなです。マウスと比べても段違いに取り扱いが簡単です。飼育コストは1/100程度ですし、一般的サイズの恒温装置で1,000匹程度の飼育が可能です。カイコですと卵も売っていますし、人工飼料もあります。プラスチックの容器に餌をぱらぱらっと入れて、そのままほったらかし。何より、マウスと違ってカイコは逃げません。野生回帰能力を失っているので、人の手がないと生育できません。成虫も飛ぶことができないです。逃げられないので、感染実験にも適しています。

カイコ

臼井 公人 様

「とにかくしゃべりつづけました」~活気を呈したポスター発表

ポスター賞をいただけて、とても嬉しかったです。ただ、GEの製品を使った発表ではなかったので、本当に良いのだろうかという気持ちも少しはありました。Life Sciences Day 2015当日のポスター発表では、とにかく人がひっきりなしに来たという印象です。懇親会でも、ずっと誰かと話をしていました。中でも印象的だったのが、企業の方が多くいらっしゃったということです。アカデミアの分野の研究者が集まる一般的な学会とは異なるポイントだと思います。そのため、製薬企業で実際に創薬に携わっていらっしゃる方に、カイコを用いた創薬について興味を持っていただき、製薬会社の現場の方が面白いと感じるポイントを知ることができました。また、今後カイコを使用した創薬を進めていく上でこんな障壁があるのではというシビアなかつ実践に近いご意見をいただけたのがとても貴重でした。こういった技術は、企業の方に興味を持っていただいてはじめて活きてきますので。

薬剤探索だけではありません

カイコの機能性食品開発への応用もLife Sciences Day 2015当日に少し触れさせていただきました。カイコには自然免疫応答が備わっています。その活性を測定することで、免疫系を活性化するようなヨーグルトの開発にもチャレンジしています。さまざまな果物からとってきた乳酸菌をカイコに投与し、最も免疫系を活性化した乳酸菌を使用することで自然免疫活性の高いヨーグルトを作ることができます。ちなみに、自然免疫活性が高まるかどうかは、カイコの縮み具合で検出しています。自然免疫活性があるものを注射すると、筋肉が収縮するのです。自然免疫応答を促す物質が免疫担当細胞に結合すると、活性酸素が放出され、セリンプロテアーゼに作用し、麻痺ペプチド(BmPP)が活性化し、筋肉収縮がおこるという原理です。



臼井様、ポスター賞の受賞おめでとうございます。また、お忙しい中インタビューにご協力いただきましてありがとうございました。

参考文献:
Hiroshi Hamamoto. et al. Lysocin E is a new antibiotic that targets menaquinone in the bacterial membrane. Nature Chemical Biology 11, 127–133 (2015)

 


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