Life Sciences Day ポスター賞受賞者インタビュー②(2/2)
ポスター発表をきっかけに、ほかのユーザーと情報交換できるようになりました
アステラス製薬株式会社
創薬推進研究所 創薬分析研究室
楠﨑 佑子様
膜タンパク質を測定したご経験はありますか?
完全な膜タンパク質の経験はありませんが、膜に近いところに存在するタンパク質は測定したことがあります。そのときは添加剤との戦いで、一筋縄ではいきませんでした。添加剤については、今回のポスター発表時の議論でも多く聞かれました。
膜タンパク質のITC測定で難しいと思われる点は?
ITCの測定では、全ての熱、例えば、液-液の反応、撹拌で生じる熱などを測定します。さらに、サンプルの安定化のために用いるグリセロールによって物理的な摩擦熱が大きく生じるため、実際の熱量の測定がとても難しいと思います。また、膜タンパク質には脂質がつきものですから、脂質を入れたときの影響なども考えなくてはなりません。
膜タンパク質のITC測定が広く行われるようになるにはまだ時間がかかると思います。しかし、誰もが興味をもっていることは間違いないので、現在取り組んでいる研究に、熱測定をどのように活用できるかをコツコツと考えていくとよいと思います。
膜タンパク質に関わらずITCのデータの解釈は難しいといわれていますね。
私もいつもデータの解釈に悩まされています。何かしらのデータは出るけれども、その解釈が難しいのです。
ITCの測定では全ての熱を拾います。それが良いところであり、悪いところでもあるといわれています。そのため人によってはITC、熱測定、または熱力学を避けがちです。それは測定した熱が全ての情報を含んでいるため、議論が一つ一つのパラメータに関する各論に終始しがちで、全体を見ることが難しいからだと思います。
関わるパラメータが非常に多いため、理論式は一見複雑そうで敬遠しがちですが、実はとてもシンプルです。丁寧に、よく組み立てられた実験を行うことで、得られた熱をそれぞれのパラメータごとに分けることも可能です。「すべての熱を拾う」、その特徴を「強み」にするためには、得られた熱をしらみつぶしに一つ一つ、何に由来する熱なのかを調べていきながら、余計なものをどんどん削り、シンプルな実験系を確立することが重要です。とにかくシンプルに!
楠﨑様、大変興味深いお話をありがとうございました。
通常の学会のポスター発表とは違い、ユーザーの集いであるLife Sciences Dayのポスター発表では測定方法や機器の使用方法に関するより深い議論が繰り広げられています。産・官・学の枠を超えた情報交換の場に読者の皆さまもぜひご参加ください。
