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SPRとITCの競合法を用いたフラグメント化合物のスクリーニングとキャラクタリゼーション

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三谷 知也

イントロダクション

近年、表面プラズモン共鳴(SPR)はフラグメントスクリーニングとキャラクタライゼ―ションを目的とした手法として広く用いられている。さらに、競合法を用いることにより、偽陽性を防ぐことができ、さらに結合部位の特異性の確認、新規結合部位に結合するフラグメントの特定において有用です。一方、等温滴定カロリメトリー(ITC)ではフラグメントとターゲットとの相互作用の熱量変化を測定でき、競合様式の解析も行えます。ここでは、SPRを用いた3種類のアッセイ法とITCを用いた2種類のアッセイ法の計5種類の競合アッセイ法について説明します。
1) 結合部位が既知の低分子化合物を固定化してターゲットタンパク質/フラグメント混合物の結合をターゲットタンパク質のみの結合と比較
2) フラグメントで結合サイトをブロックしたターゲットとブロックしていないターゲットにへの結合性の違いを比較
3) 部分的にブロックしたターゲットにフラグメントを結合させる
4) ITC競合マルチインジェクション実験
5) ITC競合シングルインジェクション実験

標的タンパク質と化合物

Target protein: Carbonic Anhydrase II (CAII)
Compounds: 250 compounds from the first Maybridge 500 compound fragment library
Instruments: Biacore™ 4000, Biacore™ T200, and Microcal Auto-iTC200

図1 標的タンパク質と化合物

SPR競合法を用いたスクリーニング

1)低分子化合物の固定化

4-(2-aminoethyl)benzenesulfonamideをアミンカップリング法でセンサーチップに固定化しました。標的タンパク質(CAII)のフラグメントの存在/非存在下での結合レスポンスを比較しました。非存在下の結合レスポンスから3×SDを差し引いた値を基準とすると11フラグメントの全てが競合的結合分子と判定され、標的タンパク質の結合阻害の程度順にランキングされました。上位5フラグメントの結合は標的タンパク質の結合レスポンスを5%以上阻害していました。

図2-1
図2-2

  • 高い感度とスループット
  • 固定化するための低分子化合物の誘導体が必要
  • 標的タンパク質の消費量が多い

2)完全にブロックされた標的タンパク質

Biacore™4000の4つのフローセルのうち2つへは、ランニングバッファーとサンプルバッファーにポジティブコントロール(フロセミド, 60μM)を存在するものを用いました。残りの2つのフローセルにはそれらを存在しないものをもちいました。フロセミド存在/非存在下でのレスポンス差が>10RUであったフラグメントを特異的結合サイトへの結合分子とみなしました。

図3-1
図3-2

  • ハイスループット ~800化合物/24時間
  • 4スポットのデータを平均化することでノイズが低減することができる
  • タンパク質消費量が低い
  • パラレル測定のため、固定化標的タンパク質の経時的な活性変化などに伴う誤差が少ない
  • ポジティブコントロール化合物の消費量が多い

3)一部ブロックされた標的タンパク質

ポジティブコントロールのフロセミドの濃度はアッセイの感度を最大限に高めるために、そのKD値(1.5μM)に設定しました。フロセミドのみのシグナルから3×SDを差し引いた値よりも解離相のシグナル低下が大きい場合特異的結合サイトへの結合分子とみなしました。

図4-1
図4-2

  • バルクレスポンスの影響を受けない
  • タンパクの消費量が少ない
  • レスポンスが小さい
  • 解離速度が中程度から遅いポジティブコントロールが必要

ITC競合法を用いた結合サイトの確認

4)マルチインジェクション法

各実験をごとに、ベースライン滴定に基づいて値を補正しました。プロトン化の効果を最小限に抑えるためにアッセイバッファーとしてPBSを使用しました。対象化合物は、測定セル中へのフラグメント化合物存在下または非存在下に置いて得られた等温滴定曲線の違いに基づいて選択しました。

図5

  • 熱力学的競合
  • ΔHとKDの情報が得られる
  • 感度が低い

5)シングルインジェクション法

各実験をごとに、ベースライン滴定に基づいて値を補正しました。プロトン化の効果を最小限に抑えるためにアッセイバッファーとしてPBSを使用しました。対象化合物は、測定セル中へのフラグメント化合物存在下または非存在下に置いて得られた等温滴定曲線の違いに基づいて選択しました。各実験をごとに、ベースライン滴定に基づいて値を補正しました。プロトン化の効果を最小限に抑えるためにアッセイバッファーとしてPBSを使用しました。全熱(Q total)は、CAIIとフラグメントの混液に競合物質を1回だけ滴下して求めました(SITE*) 。フラグメント存在下における総合熱量がタンパク質・競合物質実験の全Qから3*STD以上異なっていた場合、そのフラグメントは結合物質とみなしました。

図6

  • 基本的にはYes/No方式の競合アッセイ
  • アッセイ時間が短い
  • ΔH / KD値は得られない

Conclusion

  • SPRに加え、ITC競合法を用いて交差的にキャラクタリゼーションすることにより、フラグメントのアフィニティと発熱性の両方の情報を与えることができた。
  • Biacore™4000を用いた“完全にブロックされた標的タンパク質”法ではハイスループットで測定が可能だった。また、直接結合測定と競合測定を同時に行うことができた。
  • “低分子化合物の固定化”法ではポジティブコントロール化合物側をセンサーチップに固定化することで高いアッセイ感度を得ることができた。
  • ITC競合法は直接法に比べてタンパク消費量やフラグメントの溶解性などの制限を減らすことが可能だった。
  • シングルインジェクション法(competition SITE)はさらに測定時間やタンパク質消費量やフラグメント溶解性の問題を大幅に低減したうえで、測定可能だった。

表1

 


相互作用解析の王道」について

相互作用解析の王道」は、2009年8月よりバイオダイレクトメールでお届けしています。

連載記事一覧
タイトル 配信
ご挨拶 連載「相互作用解析の王道」を始めるにあたって 2009年8月
第1回 原理:其は王道を歩む基礎体力 2009年10月
第2回 実践編その1:抗シガトキシン抗体の相互作用解析例 2009年12月
第3回 対談:アフィニティーを測定する際の濃度測定はどうする? 2010年2月
第4回 実践編-2:相互作用解析手法を用いた低分子スクリーニング その1 2010年4月
第5回 実践編-3:核酸-タンパク質相互作用の熱力学的解析 2010年8月
第6回 概論:タンパク質/バイオ医薬品の品質評価における、SPR/カロリメトリーの有用性 2010年11月
第7回 抗体医薬開発の技術革新~物理化学、計算科学との融合~ 2011年5月
第8回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~相互作用の観点から~ 2011年8月
第9回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~タンパク質の構造安定性の観点から~ 2011年9月
第10回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(1) 2011年10月
第11回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(2) 2011年12月
参考 用語集  
〈応用編〉連載記事一覧
タイトル 配信
第1回 抗体医薬リードのカイネティクス評価手法の実例 2012年5月
第2回 細胞表面受容体の弱く速い認識を解析する 2012年7月
第3回 SPRを用いた分子間相互作用測定における、“低”固定化量の重要性 2012年8月
第4回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(1) 2012年9月
第5回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(2) 2012年10月
第6回 「ファージライブラリによるペプチドリガンドのデザインにおける相互作用解析」 2012年11月
第7回 SPRとITCの競合法を用いたフラグメント化合物のスクリーニングとキャラクタリゼーション 2012年12月
第8回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(3) 2013年2月
第9回 熱分析とタンパク質立体構造に基づくリガンド認識機構の解析 2013年3月
〈最終回〉
最終回 連載「相互作用解析の王道」を終えるにあたって ~3年間を振り返って、そしてこれから~ 2013年4月

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