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Location:Home実験手法別製品・技術情報2D DIGE(蛍光標識二次元発現差異解析)

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DIGE 道場 第3回
できるプロのタンパク質抽出術

第3回 もくじ

  1. はじめに ~とってもDIGE(大事)なタンパク質抽出~
  2. タンパク質可溶化液について (本ページ)
  3. 培養細胞からのタンパク質抽出法
  4. 組織からのタンパク質抽出法
  5. おわりに

Dr. 近藤のコラム
→コラム第3回 「生涯道場編」 ~戦うプロテオーム研究~

2. タンパク質可溶化液について

●標準的でも十分機能するタンパク質可溶化液

Minimal Labelling Dye(ミニマルダイ)Saturation Labelling Dye(サチュレーションダイ)も、標識する直前のタンパク質サンプルのpHはアルカリ側(8.0-8.5)に調整しておく必要がある。

しかし、「タンパク質抽出の段階ではpHをアルカリ側に調整してはいけない」。

アルカリ側に調整した場合、途中の遠心操作ではDNAが沈殿しなくなってしまい、電気泳動がうまくいかない。つまり、タンパク質を抽出し終えてからトリスを加えてpHを調整しなくてはいけない。

2D-DIGE法が本邦に導入され始めたころのプロトコールにはpHをアルカリ側に調整されたタンパク質可溶化液が紹介されていた。筆者はちょうどラボを移ったタイミングで2D-DIGE法を開始したので、ラボが変わり試薬のグレードが変わったせいかと思ってさんざん試したのだがまったくうまくいかなかった経験がある。つまり、高速遠心でDNAが沈殿しなくなる。

タンパク質可溶化液の組成はウレアチオウレアCHAPS、Triton X-100などが標準的であり十分である。そのまま混ぜるとpHは酸性である。他にも界面活性剤はいろいろあるのだが、いろいろ試してみた結果、どれかの組合せが他に比べて絶対的に優れているということはないことがわかった。すなわち、新しいデタージェントを加えることで画像上新たに見えてくるタンパク質スポットがある一方で、消えてしまうタンパク質スポットもある。タンパク質スポットの数が多いもの、という基準で一番よかった組合せは、下記のものである。いろいろ試した挙句、結局ごく普通の組成に落ち着いてしまった。

★Dr.近藤が推奨するタンパク質可溶化液の組成

2M チオウレア、7M ウレア、3% CHAPS、1% Triton X-100 *1

実験がうまくいかないときはいろいろ条件を変えてみたくなるものだが、この組成だけは変えずに他の条件を検討していただきたい。このタンパク質可溶化液にはサチュレーションダイの実験を考えて還元剤を入れていない。一説によると低濃度のSDSは等電点電気泳動を阻害せずタンパク質の可溶化を促進するらしい。この辺りのことについてはたくさんの論文やプロトコール本で詳細に記述されている。

ただ、経験的には、組成を変えて劇的に何かがよくなったりはしない。たとえば二次元電気泳動法のパターンがどうも思わしくない、というときに上述のタンパク質可溶化液以外のものを試したりしない方がよい。問題は必ず他にある。観察したい少数のタンパク質が決まっているという特殊な場合は、そのタンパク質を可溶化するための最適条件はあるかもしれないのでいろいろ試すのは効果があるだろう。

一方、プロテオーム解析では最大公約数的にすべてのタンパク質を可溶化させたいわけだが、そもそも「すべての」というところがあいまいなので本来は最適化できない。とりあえず自分が目標としているだけの数のタンパク質が観察されれば、それで次に進んだ方がよいと思う。最適化条件の最後の10%を仕上げるのはたいへんである。80%くらいの仕上がりでどんどん先に進んだ方が効率的である。

●可溶化液に用いる試薬のグレードは???

試薬はグレードの高いものを使ってさえいれば、「電気泳動グレード」と銘打って市販されているものは必要ない。だいたいその手のものは他社の製品の詰め替えである。とは言え、最初はどのグレードがいいのかよくわからないこともあるので、不安要因を除くためには「電気泳動グレード」を一式そろえるのも悪くない。値段もそんなに変わらないし、実験の立ち上げの段階だと、ある工程が完全に確かであると信じることができるのは大きい。

10年以上前は「ウレアはイオン交換樹脂で精製しないといけない」と言われていた。論文を投稿するとレフリーから「ウレアは精製したのか?していないのなら精製してやり直しをしなさい」というコメントが来たりしたものだが、今はそんなことを言う人はいない。ただ、粉末試薬の場合、見た目が白い結晶状に見えないものは不純物による光の散乱のためだから、使わないか精製して使うことが必要だと思っている(推定)。

タンパク質分解酵素阻害剤は入れなくてよい。研究の対象とするタンパク質がタンパク質分解酵素阻害剤がないと分解するとわかっている場合は別である。タンパク質分解酵素がないと分解してしまうように見えているデータでも、いったん可溶化したタンパク質が凍結保存されて再度使用される際にうまく可溶化されなかったという現象や、電気泳動法の再現性の問題を含んでいるのではないかと推定している。

次へ 3. 培養細胞からのタンパク質抽出

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注釈

注1:ウレアを溶かすときに熱を加えてはいけない。筆者は大学院生のとき、なかなか溶けないウレア溶液に業を煮やし、電子レンジで「チン」してしまった。その画像をお見せできないのが残念である。自分の頭の中には、こういうつまらない失敗の結果できた画像がたくさんあって(データベース化されている、と言いたいところだがそんなたいしたものではない)、今のラボで発生するゲルのトラブルは、どれかのバリエーションに一致する。だからと言って解決策をいつも提示できるわけではないのだが、必ず解決すると楽観的に考えられるところが「経験」なのかもしれない。


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