Cytiva

検索のヘルプ

Location:Home実験手法別製品・技術情報BIA(生物物理学的相互作用解析) > 相互作用解析の王道

Presented by Dr. Kouhei Tsumoto
東京大学大学院
医科学研究所
津本 浩平 先生

連載「相互作用解析の王道」を終えるにあたって
~3年間を振り返って、そしてこれから~

3. 津本研の研究内容の変化

知也:先生ご自身のラボでの研究にはどのような変化がありましたか?

津本:完全に自分の研究は低分子にシフトしたというか……。

知也:この3年間で。

津本:自分の研究の中で占める低分子の割合が圧倒的に増えています。
それから、今までの要請もあってしなければいけない、あと5年くらいはやらなければいけないのは、タンパク質間相互作用阻害剤(PPI)ですね。そのために、今まで積み重ねられてきたプロテインサイエンスのいろいろな知識をフル活用しています。

太蔵:抗体をずっと扱われていたと思いますが、バイオ医薬よりも低分子のほうが?

津本:僕は、正直言うと、低分子は難しくないと思っていました、いろんなデータを見るとね。でも、この1年やってきて特に思うのは、低分子のほうは、点を完全に整えないといけないから難しい。

太蔵:低分子は点なのですね。

津本:点。タンパク質間相互作用は面と面で、しかも面の中で、数点が完全に維持されていれば、あとはわりといい。ところが、低分子の相互作用は、形と点がかなり厳密に合わないと、-9乗のアフィニティとかいうのは出ないですね。

太蔵:分子が小さいだけに、ですね?

津本:そう、小さいだけに。それで、皆さん、たまたま合成されて成功されていますけど、そんなに簡単じゃなかった。だから、新しいターゲットに対してゼロからやるときに、今までだったら1個1個やれていたけれど、スピードを上げようとか、ある限られた開発期間の中でやろうとか、いうときに同じようにできるとは思えない。より洗練された分子を私たちは提供する必要があります。そういったときに、思ったよりも低分子は手ごわい印象です。越えなければいけない関門がバイオ医薬よりしんどい。ある意味、バイオ医薬は生産技術だった。あるところまで生物につくらせて、我々が今までの蓄積に基づいて少し改変して、いいものを作るということができました。しかし、低分子は、ゼロから作るとなると、形をスクリーニングする、官能基を至適化する。そのあとにもう一段いろいろなことがありますね。例えば、脂溶性の問題、デリバリーの問題です。こうことがまだまだ洗練されていないというか。

知也:小さいのにやることがかえって多くなると。

津本:多くなりました。バイオ医薬が主役で、すごく未来を感じさせたという時代から、合成医薬が戻ってこようとしています。

知也:今まではハイスループットスクリーニングであたりが出るのを期待する、という探し方ではなくて、結合様式を理解して設計するという作り方に変わってきていますね。

津本:今までハイスループットスクリーニングで得られてきた低分子のことを、皆あまり理解していなかったのだな、と強く感じています。合成した分子構造そのものはわかっていて、生理学的・薬理学的な作用機序も知っていても、その結合様式は見てもいなかったと。
ところがそこに、相互作用が入ってきたときに、あれ、これ、まだわかっていなかったんだ、という経験があるんです。既存医薬品の結合様式は自分が研究しなければいけないなということがあって、そっち側に自分の研究が広がっているというのは実際ありますね。その一番大きなものがタンパク質間相互作用阻害剤のスクリーニングもそうだし、実際に阻害剤としてスクリーニングがされてきたものを自分なりに解析してみて阻害メカニズムが予想と違ったので。

知也:違ったというのは?

津本:違ったというのは、みんなが思っていた絵と違うということです。孔があって、その中に入るのがいいのだという論文が出てきたりするのだけれど。

知也:そういうイメージですよね。

津本:阻害剤として機能している分子は単純に孔にはまるのではなくて、タンパク質の形を変えるだとか。

知也:デザインされてそうなったわけではなくて、そうなっていたということがわかったのですね。

津本:スクリーニングされてきたものがそうだったから、これからつくる分子も、そんな風に設計すればよいのだと方向性が見えてきました。改めてタンパク質の表面や立体構造をどう考えるか。それに対して、どういうふうに私たちが人工物で攻めていくのか。いろいろな物理学の情報から攻め方を考えなければいけないというのが今の置かれた立場ですね。

太蔵:既存の薬効がわかっている低分子化合物の作用機序を分子論でもう一回見る、というお仕事に戻ってきているということですか。

津本:そういうことがとても重要になってきます。それをベースに、じゃ、新しいターゲットでというふうになりますよね。昔のターゲットを見ると限られたものを除いては、研究されていないことが多くて、それならもう1回結合様式を見ておこうかと。

 

次のページへ 相互作用解析の未来:トータルコーディネーションが必要になってきた



相互作用解析の王道」について

相互作用解析の王道」は、2009年8月よりバイオダイレクトメールでお届けしています。

連載記事一覧
タイトル 配信
ご挨拶 連載「相互作用解析の王道」を始めるにあたって 2009年8月
第1回 原理:其は王道を歩む基礎体力 2009年10月
第2回 実践編その1:抗シガトキシン抗体の相互作用解析例 2009年12月
第3回 対談:アフィニティーを測定する際の濃度測定はどうする? 2010年2月
第4回 実践編-2:相互作用解析手法を用いた低分子スクリーニング その1 2010年4月
第5回 実践編-3:核酸-タンパク質相互作用の熱力学的解析 2010年8月
第6回 概論:タンパク質/バイオ医薬品の品質評価における、SPR/カロリメトリーの有用性 2010年11月
第7回 抗体医薬開発の技術革新~物理化学、計算科学との融合~ 2011年5月
第8回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~相互作用の観点から~ 2011年8月
第9回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~タンパク質の構造安定性の観点から~ 2011年9月
第10回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(1) 2011年10月
第11回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(2) 2011年12月
参考 用語集  
〈応用編〉連載記事一覧
タイトル 配信
第1回 抗体医薬リードのカイネティクス評価手法の実例 2012年5月
第2回 細胞表面受容体の弱く速い認識を解析する 2012年7月
第3回 SPRを用いた分子間相互作用測定における、“低”固定化量の重要性 2012年8月
第4回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(1) 2012年9月
第5回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(2) 2012年10月
第6回 「ファージライブラリによるペプチドリガンドのデザインにおける相互作用解析」 2012年11月
第7回 SPRとITCの競合法を用いたフラグメント化合物のスクリーニングとキャラクタリゼーション 2012年12月
第8回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(3) 2013年2月
第9回 熱分析とタンパク質立体構造に基づくリガンド認識機構の解析 2013年3月
〈最終回〉
最終回 連載「相互作用解析の王道」を終えるにあたって ~3年間を振り返って、そしてこれから~ 2013年4月

バイオダイレクトメールは弊社WEB会員向けメールマガジンです。バイオダイレクトメールの配信をご希望の方は、下記リンク先からご登録をお願いいたします。

WEB会員およびバイオダイレクトメール読者へのご登録

関連リンク

津本先生の研究内容や論文などはこちら→津本浩平先生の研究室Webサイト
東京大学 医科学研究所 疾患プロテオミクスラボラトリー


お問合せフォーム

※日本ポールの他事業部取扱い製品(例: 食品・飲料、半導体、化学/石油/ガス )はこちらより各事業部へお問い合わせください。