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Location:Home実験手法別製品・技術情報BIA(生物物理学的相互作用解析) > 相互作用解析の王道

Presented by Dr. Kouhei Tsumoto
東京大学大学院
医科学研究所
津本 浩平 先生

原理:其は王道を歩む基礎体力(7)

目次

  1. 相互解析作用序論
  2. 表面プラズモン共鳴を用いた速度論的解析
    1. 測定原理
    2. 結合の反応速度と平衡状態
    3. フローシステムを採用したSPR測定における速度論の取扱い
    4. van't Hoffエンタルピー(ファントホッフエンタルピー)
    5. 実験上のポイント
  3. 等温滴定型熱量測定
    1. 測定原理(当ページです)
    2. 実験上のポイント
  4. 最後に

3. 等温滴定型熱量測定

3-1. 測定原理

等温滴定型熱量測定 (Isothermal Titration Calorimetry;ITC) は結合成分を標的分子に滴下した際に起こる化学反応もしくは結合反応を観測する熱力学的方法です。物質同士が結合するときには熱の発生もしくは吸収が起こるため、この熱量を測定することにより相互作用の結合定数(kass)、反応の結合比(n)、エンタルピー変化(ΔH)、およびエントロピー変化(ΔS)を精度良く得ることができます。他の手法と異なり、試料への化学修飾や物理的固定化等を必要とせず、自然状態に近い環境下で測定できます。また、1回の実験で分子間相互作用の完全な熱力学的プロファイルを把握できることも特長の一つといえます。

ITCの装置内部にはサンプルセルとリファレンスセルが備わっており、任意の一定温度に保たれたサンプルセル中の標的分子溶液に対して、滴定シリンジ中のリガンド溶液を数マイクロリットルずつ逐次滴定します。リガンドがサンプルセル内へ滴定されて両物質が相互作用すると、結合量に正比例した熱の発生または吸収が起こります。リガンド滴定の進行に沿ってサンプルセル中の標的分子の結合サイトが飽和され、熱シグナルは減少して最終的にリガンドの希釈熱のみが観測されるようになります。Fig. 4にその模式図を示しました。

ITCの装置内部模式図
Fig. 4 等温型熱量測定装置と得られるITCデータ

Fig. 5に典型的なITCデータと等温滴定曲線を示します。左図はリガンド溶液をサンプルセル中の標的分子溶液へ合計18回にわたって滴下したときのデータを示しており、各滴定ピークの面積はその滴定によって発生した熱量に等しくなります。また、各滴定の発生熱量をセル中におけるリガンドと標的分子のモル比に対してプロットすることにより右図のような相互作用の結合等温線が得られます。この例の場合、カーブフィッティングにはOne-Set-of-Sitesモデルを使用し、得られたベストフィットカーブを赤線で示してあります。各フィッティングパラメータから、結合定数、結合比、エンタルピー変化を求めることができます。

ITCデータの例
Fig. 5 典型的なITCデータと結合等温線

滴定のデータから結合定数Kを以下のように求めることができます。 化学量論的に1:1の反応に対して、M+X=MXの結合平衡は次式で記述されます。

K=[MX]/([X][M])、(f16)

Xtot=[X]+[MX]、(f17)

Mtot=[MX]+[M]=[MX]+[MX]/(K[X])、(f18)

ここでKは結合定数です。

MX濃度の変化は、熱変化として次式と関連付けられます。

dQ=d(MX)ΔHoVo、(f19)

ここでΔHoは結合のモルエンタルピー、Voはセル容積、Qは吸収または発生した熱量です。

(f16)、(f17)、(f18)、(f19)式より次式が導かれます。

1/(Vo(dQ/dXtot))=ΔHo(1/2+(1-(1+r)/2-Xr/2)/((Xr2-2Xr(1-r)+(1+r)2)1/2))、(f20)

ここで、r=1/(K Mtot)、Xr=Xtot/Mtotです。

滴定型熱量測定装置で測定される実験的パラメータは示差熱dQ/dXtot(実際にはΔQ/Xtot)です。ΔHoは滴定曲線下の総面積から得られます。上記のようにして、測定値としてΔHoとKが求められるので、(f21)式よりギブスエネルギーΔGoとエントロピーΔSoが算出されることになります。

ΔGo=ΔHo-TΔSo=RTlnK、(f21)

次へ(等温滴定型熱量測定 - 実験上のポイント)


相互作用解析の王道」について

相互作用解析の王道」は、2009年8月よりバイオダイレクトメールでお届けしています。

連載記事一覧
タイトル 配信
ご挨拶 連載「相互作用解析の王道」を始めるにあたって 2009年8月
第1回 原理:其は王道を歩む基礎体力 2009年10月
第2回 実践編その1:抗シガトキシン抗体の相互作用解析例 2009年12月
第3回 対談:アフィニティーを測定する際の濃度測定はどうする? 2010年2月
第4回 実践編-2:相互作用解析手法を用いた低分子スクリーニング その1 2010年4月
第5回 実践編-3:核酸-タンパク質相互作用の熱力学的解析 2010年8月
第6回 概論:タンパク質/バイオ医薬品の品質評価における、SPR/カロリメトリーの有用性 2010年11月
第7回 抗体医薬開発の技術革新~物理化学、計算科学との融合~ 2011年5月
第8回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~相互作用の観点から~ 2011年8月
第9回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~タンパク質の構造安定性の観点から~ 2011年9月
第10回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(1) 2011年10月
第11回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(2) 2011年12月
参考 用語集  
〈応用編〉連載記事一覧
タイトル 配信
第1回 抗体医薬リードのカイネティクス評価手法の実例 2012年5月
第2回 細胞表面受容体の弱く速い認識を解析する 2012年7月
第3回 SPRを用いた分子間相互作用測定における、“低”固定化量の重要性 2012年8月
第4回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(1) 2012年9月
第5回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(2) 2012年10月
第6回 「ファージライブラリによるペプチドリガンドのデザインにおける相互作用解析」 2012年11月
第7回 SPRとITCの競合法を用いたフラグメント化合物のスクリーニングとキャラクタリゼーション 2012年12月
第8回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(3) 2013年2月
第9回 熱分析とタンパク質立体構造に基づくリガンド認識機構の解析 2013年3月
〈最終回〉
最終回 連載「相互作用解析の王道」を終えるにあたって ~3年間を振り返って、そしてこれから~ 2013年4月

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