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Location:Home実験手法別製品・技術情報BIA(生物物理学的相互作用解析) > 相互作用解析の王道

Presented by Dr. Kouhei Tsumoto
東京大学大学院
医科学研究所
津本 浩平 先生

実践編-1:抗シガトキシン抗体の相互作用解析例(2)

目次

  1. はじめに
  2. 環状ポリエーテル化合物シガトキシン(当ページです)
  3. 方法
  4. 実験結果
    1. 抗シガトキシン抗体10C9FabのX線結晶構造解析
    2. 抗原抗体相互作用の熱力学的解析
  5. まとめ

2. 環状ポリエーテル化合物シガトキシン

自然食中毒の一つとして知られるシガテラは、主に熱帯および亜熱帯海域のサンゴ礁周辺に生息する魚介類の摂食によって起こり、世界中で年間およそ50000人の罹患者がいるといわれています。主な症状は下痢、倦怠感、関節痛、痒みのほか、ドライアイスセンセーションと呼ばれる特有の神経系異常が現れ、回復までには数か月以上を要する場合もあります。近年では、温暖化とともに中毒発生海域が北上し、これまでは見られなかった本州各地でもシガテラが確認されるようになってきています。シガテラは、深刻な社会問題の一つですが、未だ有効な治療法や診断法、毒魚の検出法等は確立されていません。神経毒性の発現メカニズムを分子レベルで解明し、有効な予防・治療法の開発に繋げていくことは急務となっています。

このシガテラ中毒の原因物質は、渦鞭毛藻のGambierdiscus属が産生する環状ポリエーテル系毒素ciguatoxin(CTX)であることが近年同定されました。CTX類は、エーテル環が規則的にトランス縮合した環状ポリエーテルを基本骨格に持った梯子状の剛直な巨大分子です(Fig. 1)。水に難溶性であるCTXは食物と共に魚介類の生体中に取り込まれたまま蓄積し、生物濃縮されて人体まで到達します。CTXは、電位依存性のナトリウムチャネルに結合して持続的な脱分極を引き起こし、種々の神経系障害をもたらすと考えられています。その毒性は、シアン化化合物の2800倍、フグ毒として知られるテトロドトキシンの28倍であり、自然界に存在する毒素の中でも特に強力な毒性を持つといわれています。

CTXの構造式
Fig. 1 CTX3C(1), CTX3C-ABCDE(2), CTX3C-ABCD(3), CTX3C-ABC(4)の構造

2003年、大栗(現在北海道大学理学研究科、創成機構)らによって、このCTX類の一種であるCTX3Cに対する検出法が開発されました(1)。この系では、CTX3Cをそれぞれ左右から認識する2種類の抗CTX3C抗体10C9と3D11を用い、サンドイッチ型ELISA法によって検出限界5 nMの高感度検出を達成しています。10C9は、CTX3Cの断片であるABCDE環を抗原として得られたマウスモノクローナル抗体であり、ABCDE環とは解離定数(KD) 0.8 nM、全長のCTX3Cとは2.8 nMで結合することが分かっています。また、他のポリエーテル系毒素であるBrevetoxin A、B、Okadaic acid、Maitotoxinには交差反応性を示さず非常に高い特異性を持ちます。しかし、10C9によるCTX類の認識機構はもちろん、環状ポリエーテル化合物とタンパク質との相互作用に関する知見はほとんど得られていませんでした。

そこで、私たちは抗CTX3C抗体10C9とCTX3Cとの相互作用に焦点を当て、CTX3Cが持つ複数の多様なエーテル環構造をどのようにして抗体が認識し、特異性を創出しているのかを、結晶構造解析、熱力学、速度論、変異導入により解析しました。今回は結晶構造解析と熱力学解析の結果をご紹介します。

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相互作用解析の王道」について

相互作用解析の王道」は、2009年8月よりバイオダイレクトメールでお届けしています。

連載記事一覧
タイトル 配信
ご挨拶 連載「相互作用解析の王道」を始めるにあたって 2009年8月
第1回 原理:其は王道を歩む基礎体力 2009年10月
第2回 実践編その1:抗シガトキシン抗体の相互作用解析例 2009年12月
第3回 対談:アフィニティーを測定する際の濃度測定はどうする? 2010年2月
第4回 実践編-2:相互作用解析手法を用いた低分子スクリーニング その1 2010年4月
第5回 実践編-3:核酸-タンパク質相互作用の熱力学的解析 2010年8月
第6回 概論:タンパク質/バイオ医薬品の品質評価における、SPR/カロリメトリーの有用性 2010年11月
第7回 抗体医薬開発の技術革新~物理化学、計算科学との融合~ 2011年5月
第8回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~相互作用の観点から~ 2011年8月
第9回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~タンパク質の構造安定性の観点から~ 2011年9月
第10回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(1) 2011年10月
第11回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(2) 2011年12月
参考 用語集  
〈応用編〉連載記事一覧
タイトル 配信
第1回 抗体医薬リードのカイネティクス評価手法の実例 2012年5月
第2回 細胞表面受容体の弱く速い認識を解析する 2012年7月
第3回 SPRを用いた分子間相互作用測定における、“低”固定化量の重要性 2012年8月
第4回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(1) 2012年9月
第5回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(2) 2012年10月
第6回 「ファージライブラリによるペプチドリガンドのデザインにおける相互作用解析」 2012年11月
第7回 SPRとITCの競合法を用いたフラグメント化合物のスクリーニングとキャラクタリゼーション 2012年12月
第8回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(3) 2013年2月
第9回 熱分析とタンパク質立体構造に基づくリガンド認識機構の解析 2013年3月
〈最終回〉
最終回 連載「相互作用解析の王道」を終えるにあたって ~3年間を振り返って、そしてこれから~ 2013年4月

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