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Location:Home実験手法別製品・技術情報BIA(生物物理学的相互作用解析) > 相互作用解析の王道

Presented by Dr. Kouhei Tsumoto
東京大学大学院
医科学研究所
津本 浩平 先生

実践編-1:抗シガトキシン抗体の相互作用解析例(4)

目次

  1. はじめに
  2. 環状ポリエーテル化合物シガトキシン
  3. 方法
  4. 実験結果
    1. 抗シガトキシン抗体10C9FabのX線結晶構造解析(当ページです)
    2. 抗原抗体相互作用の熱力学的解析
  5. まとめ

4. 実験結果

4-1. 抗シガトキシン抗体10C9FabのX線結晶構造解析

抗CTX3C抗体10C9Fab、および抗原となるCTX3C-ABCD、ABCDEとの複合体のX線結晶構造解析を行ったところ、それぞれ分解能2.6、2.4、2.3Åで立体構造を明らかにすることができました。10C9Fabは、最大の特徴としてVHとVLの界面に大きな溝状の抗原結合ポケットを形成しており、CTX3C-ABCD、ABCDEはどちらもその抗原結合ポケットに対してA環を奥に向けた状態で縦に突き刺さるように結合することが明らかとなりました(Fig. 2)。このように抗体の可変領域の深部まで抗原が入り込む例はこれまでほとんど知られておらず、10C9Fabによるこれら環状ポリエーテル化合物への結合様式は非常に新規性が高いものです。

構造の図
Fig. 2 10C9Fabの可変領域・CTX3C-ABCDE複合体の構造(1)および10C9Fabの可変領域・CTX3C-ABCD複合体の構造(2)

Fig. 3にCTX3C-ABCDEとの相互作用に直接関与するアミノ酸残基を模式図で示しました。

相互作用の模式図
Fig. 3 10C9FabとCTX3C-ABCDEの相互作用の模式図

複合体形成には主に抗原抗体間の水素結合やCH-π相互作用を含めたファンデルワールス相互作用が寄与していると推測されます。CTX3C-ABCDとCTX3C-ABCDEでは抗原抗体間の相互作用に顕著な差は見られませんでした。しかしながら、10C9Fab・CTX3C-ABCDE複合体では、E環との間で水素結合を形成するH-Asn58の方向性が制御され、それに伴い抗体間に水素結合ネットワークが生じ、抗体の構造をより安定化させている可能性が示唆されました。また、L-Asn94とE環のファンデルワールス相互作用が顕著で、この相互作用の有無がABCD複合体とABCDE複合体の間で大きく異なっていました(Fig. 4)。

構造の図
Fig. 4 抗原結合部位入口付近の局所的構造
(A)10C9Fab・CTX3C-ABCD複合体
(B)10C9Fab・CTX3C-ABCDE複合体

また、抗原結合前後の立体構造を比較すると、どちらの複合体でも抗原結合に伴って可変領域に抗原を中心としたわずかながらもはっきりとした回転運動を生じる可能性が示唆されました(Fig. 5)。

認識機構の模式図
Fig. 5 10C9Fabの抗原認識機構

この運動性は特に10C9Fab・CTX3C-ABCD複合体で大きく、RMSDの値からも10C9Fab・CTX3C-ABCDEと比較して1.5倍程度の有意な差が生じていました。また、定常領域では10C9Fab・CTX3C-ABCD複合体で顕著な構造変化が確認できました。このことは、10C9Fabが抗原の長さに応じた誘導適合を生じ、その影響は可変領域のみならず定常領域にまで達していることを意味しています。

10C9Fab単独と10C9Fab・CTX3C-ABCD、ABCDEのそれぞれの複合体の温度因子を算出したところ、抗原結合に伴っていずれもCDRループの安定化が起きていました。しかし、CTX3C-ABCDとCTX3C-ABCDEでは定常領域の安定化に大きな違いがあり、CTX3C-ABCDEでは構造を安定化する一方、10C9Fab・CTX3C-ABCDでは逆に10C9Fab単独よりも揺らぎの大きな状態で存在することが明らかとなりました。

次へ(実験結果-抗原抗体相互作用の熱力学的解析)


相互作用解析の王道」について

相互作用解析の王道」は、2009年8月よりバイオダイレクトメールでお届けしています。

連載記事一覧
タイトル 配信
ご挨拶 連載「相互作用解析の王道」を始めるにあたって 2009年8月
第1回 原理:其は王道を歩む基礎体力 2009年10月
第2回 実践編その1:抗シガトキシン抗体の相互作用解析例 2009年12月
第3回 対談:アフィニティーを測定する際の濃度測定はどうする? 2010年2月
第4回 実践編-2:相互作用解析手法を用いた低分子スクリーニング その1 2010年4月
第5回 実践編-3:核酸-タンパク質相互作用の熱力学的解析 2010年8月
第6回 概論:タンパク質/バイオ医薬品の品質評価における、SPR/カロリメトリーの有用性 2010年11月
第7回 抗体医薬開発の技術革新~物理化学、計算科学との融合~ 2011年5月
第8回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~相互作用の観点から~ 2011年8月
第9回 対談:バイオ医薬品の品質管理技術の発展性~タンパク質の構造安定性の観点から~ 2011年9月
第10回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(1) 2011年10月
第11回 実践編-4:フラグメントライブラリーの測定におけるSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法(2) 2011年12月
参考 用語集  
〈応用編〉連載記事一覧
タイトル 配信
第1回 抗体医薬リードのカイネティクス評価手法の実例 2012年5月
第2回 細胞表面受容体の弱く速い認識を解析する 2012年7月
第3回 SPRを用いた分子間相互作用測定における、“低”固定化量の重要性 2012年8月
第4回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(1) 2012年9月
第5回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(2) 2012年10月
第6回 「ファージライブラリによるペプチドリガンドのデザインにおける相互作用解析」 2012年11月
第7回 SPRとITCの競合法を用いたフラグメント化合物のスクリーニングとキャラクタリゼーション 2012年12月
第8回 DSC(示差走査熱量計)によるタンパク質の熱安定性評価(3) 2013年2月
第9回 熱分析とタンパク質立体構造に基づくリガンド認識機構の解析 2013年3月
〈最終回〉
最終回 連載「相互作用解析の王道」を終えるにあたって ~3年間を振り返って、そしてこれから~ 2013年4月

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