一般的なろ過では、家庭用で使用されるようなコーヒーフィルターや、キャンプなどで川の水をきれいにするために大きさの異なる石を細長い形状の容器に詰めろ材として使用するケースがあります。この場合、抽出する液体の不純物が含まれないようにする意図があります。これは実験においても同様ですが、取り除きたい不純物の大きさは用途や目的に応じて様々です。実験で使用するろ過には様々な種類があり、取り除きたい不純物の大きさによって、ろ過の区分が異なります。一般的に利用されるろ過には、逆浸透、限外ろ過、精密ろ過、粗ろ過の4種類が存在します。

  • 逆浸透:浸透圧の異なる2つの溶液を半透膜で仕切ると、浸透圧の高い溶液に浸透圧以上の圧力を加えると、浸透圧の低い溶液側に水分子のみが移動する現象を示します。一般的に使用される半透膜の孔径はおよそ数nm以下で低分子量の分子の分離に用いられます。
  • 限外ろ過:高分子サイズの孔径をもつメンブレンを利用し、分離・精製・濃縮を行なう方法です。主にタンパク質などの高分子と低分子(イオンなど)を分離する際に利用します。メンブレンの孔径は、約10 – 100 nmです。限外ろ過膜を持つデバイスでは、孔径のサイズを分画分子量(MWCO)で定義します。
  • 精密ろ過:µmサイズの孔径をもつメンブレンを利用する方法です。孔径は、0.1 µmから10 µmを使用します。主に液体サンプル中の微粒子の除去を行ない、サンプルの清澄化に利用します。
  • 粗ろ過:精密ろ過よりも孔径の大きいメンブレンを利用します。一般的に精密ろ過前のプレろ過として、非常に濁りが強い溶液の微粒子除去に利用します。

精密ろ過

精密ろ過は、サンプルのろ過滅菌や清澄化に利用する方法です。メンブレンの孔径は0.1 – 10 µmです。目的に応じて孔径の大きさを選択する必要があります。

  • 0.1 µm:マイコプラズマの削減
  • 0.2 µm:ろ過滅菌
  • 0.45 µm:サンプルの清澄化、大サイズのウィルス除去
  • 0.8 µm – 5 µm:大きな粒子の除去、プレろ過

精密ろ過に実験用途の例として、分析試験(HPLCなど)を行なう前の前処理が挙げられます。これには孔径0.2 - 0.45 µmのシリンジフィルターが利用されます。この前処理を行なうことでカラムの目詰まりを防止し、分析結果の妨げになるアーチファクトの影響を抑制することができます。

また、細胞培養に利用する培地のろ過滅菌に利用できます。数10mL程度であれば孔径0.2 µmのシリンジフィルター、数L単位であれば同じく孔径0.2 µmのカプセルフィルターまたはボトルトップフィルターが採用されています。このような滅菌性の確保が必要な溶液に対しては、フィルター自体が滅菌されている製品を利用する必要があります。

メンブレンの種類

精密ろ過で使用するメンブレンは主にデプス型と呼ばれるメディアを使用します。このメディアでは平面上に均一に孔が存在せず、メンブレンが複雑に入り組んだ迷路のような構造をしています。そのため、メンブレン上だけでなく、メンブレン内部にも粒子を捕捉することができます。実験用の精密ろ過フィルターで活用されている材質は以下の通りです。

  • PES(ポリエーテルスルホン) : 他のメンブレンと比べ高い流量特性を有しており、低タンパク質吸着性を持ちます。飲料やバイオ、製薬分野で幅広く利用されています。
  • PVDF(ポリフッ化ビニリデン):機械的強度が高く、酸やアルコールに薬品耐性を持ちます。
  • ナイロン:親水化処理用の湿潤剤や界面活性剤を含まないため、メンブレンからの溶出物が少ないという利点があります。エーテルやエステルに薬品耐性があります。
  • ポリテトラフルオロエチレン(PTFE):酸、アルカリ、様々有機溶媒に対して優れた薬品耐性を持ちます。また、親水性PTFEは、優れた薬品耐性を持ちつつ、水溶液のろ過にも利用でき、低タンパク質吸着性を有します。

精密ろ過フィルターは、孔径0.2 – 0.45 µmのものが主流です。一方で、孔径が非常に小さいため目詰まりも起こしやすいのが特長です。微粒子の多く濁度の高いサンプルは、一度粗ろ過処理を行なってから精密ろ過フィルターに通すのがおすすめです。ガラス繊維のメディアをプレろ過フィルターとして使用し、メインフィルターである0.2 – 0.45 µmを保護する設計を持つシリンジフィルターも存在します。この場合、一回のろ過で安全にサンプルの清澄化やろ過滅菌を行なうことができます。

シリンジフィルターの直径

シリンジフィルターには様々な大きさを持ちます。これはろ過するサンプルの容量に応じて使い分けることができます。小さいもので直径4 mm、大きいもので37 mmがあります。サンプルの容量に応じて適切な直径サイズのシリンジフィルターを選定することでろ過途中での目詰まりを防ぐことができます。

シリンジフィルターの直径:

  • 4 mm:2 mL以下
  • 13 mm:10 mL以下
  • 25 mm:100 mL以下
  • 37 mm:100 mL以上