フレキシブルで強化されたタンパク質精製を実現するクロマトグラフィーオプション

今日の製薬業界におけるクロマトグラフィー精製のための主な手法では、高度多孔性のマイクロスケールレジンを使用しています。これらのレジンは、複雑なプロセス流から医薬品を識別することができる機能性のある表面を有します。例えば、レジン表面にprotein Aリガンドが存在する場合、モノクローナル抗体(mAb)の精製はアフィニティー相互作用を介して行われます。

しかし、臨床的および経済的な推進力にあわせるようにバイオ医薬品市場の進化と成長が続いているため、プロセスを強化したり、生産設備をよりフレキシブルにしたりするニーズが高まっています。このようなニーズの高まりに対応するには、生産性を向上させ、シングルユースにおいても経済的であるような新たな技術が、それぞれの操作で必要とされています。このような状況の中で、多孔性レジン(レジン、担体)に代わる技術が模索されています。

そうした技術の一つがFibroであり、これは独自の構造を利用することによって、充填床クロマトグラフィー精製にまつわる拡散と流動性に関する制約を克服しています。また、メンブレン吸着剤(ほとんどの場合、汚染物質の捕捉に限定して用いられている)の結合容量の問題に対処することも目的としています。この新しい吸着材料は、急速に変化するバイオ医薬品業界の需要を満たしつつ、プロセスのフレキシビリティと頑健性を改善する可能性を秘めています。

図1. ファイバー表面はの貫通孔構造で表面積が大きいため、対流的な物質移動と高い結合能が可能です。

MabSelect PrismA™リガンド―次世代のprotein A

組換え体protein Aリガンドは、異なる抗体を同じアプローチで精製することを可能にし、1ステップで99%以上の純度を達成することで、抗体バイオ医薬品の時代を実現しました。protein Aは1960年代に発見されましたが、抗体の工業的な精製に広く用いられるようになったのは1980年代に入ってからです。

protein Aテクノロジーの開発は産業界のニーズを反映したものでした。まずprotein Aの生産段階から動物由来の成分が除去され、次いでクロマトグラフィーレジンの圧力/流速特性が改善されました。2005年には、最初の耐アルカリ性protein AレジンであるMabSelect SuRe™が商品化されました。このレジンは、protein Aレジンの寿命を飛躍的に延ばし、mAb精製のコストを下げることで、protein Aテクノロジーをさらに進化させました。最近では、より高い力価の細胞培養のニーズに応えるべく、結合容量と耐アルカリ性を向上させたMabSelect PrismA™レジンが開発されました(図2)。

図2. 結合容量および耐アルカリ性が改善された組換えprotein Aリガンド

このリガンドは、ハイスループットスクリーニングを用いてアルカリ分解に弱いアミノ酸を特定し、その位置をより安定なアミノ酸で置換することによって開発されました。最初のスクリーニングは単量体で行い、もっとも有望なコンストラクトを多量体化して、安定なリガンドコンストラクトを構築しました。さらに、分子間相互作用の高品質な特性評価に用いられるBiacore™システムを用いて、400種以上のコンストラクトをスクリーニングしました。

protein Aのためのクロマトグラフィー吸着剤の探索

protein Aリガンドは有効ですが高価です。このコストは、protein Aの遺伝子組換え生産プロセスに由来しており、生物製剤の製造に使用する前に精製しなければならないという事実によるものです。したがって、protein Aリガンドを有効に利用するためには、吸着材料は、最小の物理的体積でできるだけ多量の抗体を効率よく捕捉するように、高い表面積対体積比をもつものでなければなりません。また、モノクローナル抗体の大きさは約5 nmであるため、この表面は大きな標的タンパク質分子からもアクセス可能である必要があります。

さらに、リガンドの利用は、精製サイクルを完了するまでの時間(抗体製品の結合と溶出、複数回の洗浄、コンディショニングの各ステップを含む)に左右されます。このように、生産性は、単位時間および吸着剤の単位量あたりに精製できる製品の量の関数です。また、複数回のサイクルを経てレジンを再利用できる能力の関数でもあります。

レジンベースのクロマトグラフィー吸着剤は非常に多孔質で、その表面積(約40 m2/g)の大部分が内部構造の中に隠されています。そのため、バルクフィード媒体中で運ばれている標的抗体は、クロマトグラフィーレジンの細孔の奥深くに埋もれた機能性結合面に到達するまでに、2段階の物質移動を経なければなりません(図3)。

図3. 多孔性レジンにおける物質移動の略図。

まず最初に膜拡散が起こり、次いで細孔への拡散が起こります。この移動には十分な滞留時間が必要であり、流量が大きいと結合容量および生産性が低下するため、結果として操作時の流量が制限されます。このように、拡散は、レジンを用いた精製の生産性向上にとって根本的な障壁です。

また、レジンの支持構造は圧縮可能であるため、流量を増加させると内部空隙が縮小し、背圧が上昇します。限界を超えると、この圧縮は不可逆的な機械的損傷を引き起こします。ビーズをベースとした工業規模の操作では、滞留時間は3~12分とされ、サイクル時間は6~8時間になります。前述のとおり、レジンはプロセスの費用対効果を高めるために、しばしば複数のバッチにわたって使用されます。

モノリスおよびメンブレン吸着剤のテクノロジーは対流的な物質移動によって機能し、拡散には依存しません。このことは、より短い滞留時間とより大きな流量で操作できることを意味します。しかし、モノリスやメンブレン吸着剤には利用可能な表面積が限られています。そのため、これらの吸着剤は、精製過程の末端近傍など、吸着される汚染物質の濃度が低く、結合容量がそれほど重要でない場合でしばしば用いられます。protein Aのような製品捕捉ステップの生産性を向上させるためには、高流量と迅速な物質移動を両立させた、新しい吸着剤が求められています。

Fibroテクノロジー

Fibro吸着剤は、こうしたニーズに対応するように設計されました。ファイバーは構造が非常にオープンであり、メンブレン吸着剤やモノリスと同様に拡散を伴わない物質移動が促進されます。メンブレン吸着剤やモノリスとは異なり、Fibro構造は、電界紡糸(エレクトロスピニング)と呼ばれる付加製造プロセスの結果として大きな表面積を有します。電界紡糸では最初に、ポリマーの溶媒溶液に電荷が印加され、誘導静電荷による自己反発が生じます。この電荷により、ポリマー溶液からジェットが発射されます。溶媒が乾燥し、電荷がポリマー表面に移動することで、ホイッピング(むち打ち様の挙動)過程を通じて急速な加速が起こります。また、紡糸の進行に伴ってファイバーの直径は減少します(図4)。

図4. 電界紡糸(エレクトロスピニング)によるファイバー形成の図解。

Fibro素材には、長い炭化水素鎖が結合したポリマーが用いられています。長い鎖は絡み合って分離できず、そのことがポリマーの構造を維持し、ファイバーを形成しています。ファイバーの各層はランダムに積み重なり、毛糸玉やスパゲッティに似た構造を形成しています。このプロセスで生じる材料の表面積は約10 m2/gであり、従来の多孔質キャスト膜(約0.7 m2/g)と比較して非常に大きくなっています。Fibroの製造プロセスは、表面への急速な質量移動を可能にする均質性と特性を生み出します。

図5. ファイバーテクノロジーは短い滞留時間で高い動的結合容量を可能にします。

図5は、Fibroテクノロジーと、同一リガンドで機能性をもたせた多孔性レジンとで性能を比較したものです。Fibroの表面積(約10 m2/g)はレジン(約40 m2/g)に比べて小さいものの、短い滞留時間での結合容量はFibroの方が大きいことがわかります。滞留時間が長くなるにつれて、拡散が起こる時間が長くなり、レジンの結合容量が大きくなります。しかしFibroの容量はほぼ一定であり、このことは、アクセス性の高い表面のために滞留時間の影響をほとんど受けないということを裏付けています。

短い滞留時間でFibroを操作できるという性能は、工業的スケールに大きく影響します。1サイクルを実行するのに、レジンカラムならば6〜8時間かかりますが、Fibroならば約5分で完了することができます。これは、現在は1~5日を要するクロマトグラフィーステップを、十分な大きさのファイバーテクノロジーユニットならばわずか2~3分で実行できることを意味しています。

ファイバー吸着剤を用いると、わずか数分で完全なクロマトグラムが得られ、速やかにカラムをリサイクルできます。通常のラージスケールカラムならばたったの1~2サイクルに相当する時間で、Fibroは数百サイクルを完了させることができます。このような生産性は、稼働装置のフットプリントを大幅に縮小するでしょう。

さらに、Fibroはprotein Aリガンドのサイクル寿命の完全償却を可能にすることで、protein Aステップをシングルユース操作へと効果的に変換します。Fibroはまた、精製性能を維持しながら上流工程の変動に合わせてエンドユーザーがフィードの流量を変更できるため、連続製造にとって有益となるフレキシビリティも実現します。

未来に向けた高生産性テクノロジー

Fibroテクノロジーのスケーラビリティと再現性を実証するために、40 mLのファイバー吸着ユニットを用いて、代表的なmAbを90サイクルにわたって精製しました。図6は、2サイクル目と90サイクル目のクロマトグラム(UV吸光値のトレース)が一致していることを示しています。6時間で114 gのmAbが生産されました。

図6. 急速サイクル運転を行ったFibroユニットの寿命全体で、同じ性能が得られることを示すクロマトグラム

生産性の面では、1 Lの吸着剤あたり、1時間で約500 gのmAbが精製されました。一方、従来のレジンカラムでは、1 Lあたり、1時間で約10 gしか生産できませんでした。バイオ医薬品製造は年間生産量150 kg以下という小バッチサイズへと移行しつつあり、また、上流工程での力価が劇的に上昇していることから、生産性の高いクロマトグラフィープロセスが必要とされています。そしてこのことは、バイオプロセス製造の設計に新たな需要をもたらしています。

製造バッチや品目間を容易にすばやく切り替えできる多品種製造設備の重要性が増していることから、シングルユース技術の採用が後押しされています。また、上流工程での力価が上昇していることは、より高い生産性が求められるダウンストリームの操作に大きなプレッシャーをかけています。このことは、最近の大容量レジンの開発だけでなく、連続クロマトグラフィーの採用にもつながっています。スケーラブルなテクノロジーを利用した柔軟な設備は、バイオ医薬品が市場でどれほど利益を生むかわかるまで設備投資を遅らせることを可能にすることで、製造引き継ぎ時のプロセス開発リスクを低減します。

このテクノロジーを開発するにあたり当社は、世界中の大小さまざまな規模の共同研究者から提供された50種類以上のmAbsについて研究してきました。いずれの場合も、Fibro精製プロセスで製造された製品の品質は、PrismAリガンドのずば抜けたパワーとFibroのユニークなデザインとの組み合わせのおかげで、既存のprotein Aテクノロジーで得られる品質と一致しています。

これまでバイオ医薬品メーカーは、protein Aクロマトグラフィーに代わる新しい技術を求めてきました。しかし、その有効性から、protein AはmAb製造にほぼ例外なく採用されています。Fibroは、protein Aクロマトグラフィーに取って代わるのではなく、その生産性を段階的に変化させることから、今後数十年にもわたって、プラットフォームプロセスにおけるprotein Aの利用を拡大するものと期待されています。特に新しい生物学的ターゲットを扱う人にとって重要なことですが、当社は、Fibroが最終的にさまざまなリガンドや機能と組み合わされ、ウイルスベクターの精製など、他の重要な分野にも関与していくことを期待しています。

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